知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(34)

旭が夕食をおごると言うと、圭一は頑なに拒んだ。「いいよ。自分で払うから」「でも、バイト代出たし」「せっかく稼いだんだから、自分のために遣えって」「これも自分のためだから」「変な気遣わなくていいから、まじで」「俺がおごりたいんだよ」 口調を強...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(33)

11.USJ  結局、USJに行けたのは夏休みの終盤だった。旭のバイト代が振り込まれるのが意外に遅かったからだ。圭一がお盆に祖父母からもらうお小遣いを当てにしていたように、旭も田舎でお小遣いをもらえたのだけど、何となく、せっかくだから自分で...
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知らぬ間に失われるとしても(32)

大した理由でもないのに辞めていいのだろうか。言い訳にして逃げているだけじゃないか。それともバイトなんてそういうものなんだろうか。普通はどうするものなんだろう。圭一だったら。 その夜、旭はいつの間にか寝落ちするまでずっとぐるぐると考え続けたが...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(31)

月曜日の夜、夕食を食べ終えた旭は、何でもないふりをしつつ食卓に残っていた。今日は珍しく父親の帰りが早くて、逆にうるさい姉が外食でいない。好都合だった。「……あのさ」 母親がキッチンに立ったタイミングを見計らって、テレビを観ている父親にさりげ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(30)

「それ、セクハラとかじゃないの」 それまで楽しそうに話していたのに、圭一の表情が真剣なものに変わっていた。「セクハラ? いや、一応女の人だって」「女から男へのセクハラだってあるだろ」「……でも、おかんより更に上の人だし」 何となく認めたくな...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(29)

職場ではとにかく仕事をすればよい、という当たり前のことを、旭はここで身を持って学んだ。 仕事に打ち込むことが、この時間をやり過ごすうえで一番楽な方法だった。仕事のことなら他の人ともそれなりに言葉を交わすことができたし、アウェイ感も多少は薄れ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(28)

10.夏のアルバイト  夏休みに入るとすぐに、旭の人生初のアルバイトが始まった。 就業場所は海側の埋立地にある工場地帯の一角で、公共交通機関で通うには不便なところにあったが、従業員のために最寄り駅から送迎バスが用意されていた。 初日、少し早...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(27)

次の日、授業終わりに落ち合ってすぐ、旭はさりげなく「どこ行く?」と言った。圭一は表情を変えることなく、近くの総合商業施設の名を挙げる。「Eモールでも行くか」 旭は内心ほっとしながら頷いた。 学校を出た後、自宅のあるエリアを通り抜けて少し先に...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(26)

9.ショッピングモール  テストが終わり、夏休みまでの残りの授業を消化試合のように過ごす。返ってきた答案の点数はどれもそれほど悪くなかった。圭一と毎日勉強した成果だろう。 生活は以前のように戻り、圭一と過ごす時間も減った。午後の授業がある間...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(25)

その後、旭の部屋でケーキを食べてから、あらためて圭一の家に移動した。 圭一が旭の部屋に入ったのは、旭が圭一の部屋に行った以上に久しぶりだった。多分、小学生の頃以来だろう。圭一は少しだけ物珍しそうに部屋の中を見回していた。 結局今日も圭一の家...
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