偽りとためらい

偽りとためらい

偽りとためらい(98)

 つらつらと考えていると、あかりから声を掛けられる。「藤代くん」「ん?」「……さっきの話、半年後くらいでもいいですか」「どの話?」「連絡先の話です」 あかりが顔を上げる。普段の表情に戻っている。今からのことを考えて動揺しているのかとばかり思...
偽りとためらい

偽りとためらい(97)

「藤代くん。私、今からちょっと非道なことを言います、すみません」「非道?」 少し沈黙が続いた後、意を決したように硬い声で話し出したあかりに、高志は怪訝な声で問い返した。あかりがおかしなことを言うのにはもう耐性がついている。「もし、今日最初に...
偽りとためらい

偽りとためらい(96)

 ふと、自分のものではない嗚咽が聞こえてきた気がして、高志は顔を上げた。目の前では、あかりが眉根を寄せながら涙を浮かべて、ハンカチを握りしめていた。「……何で矢野さんが泣いてんの」 高志が問い掛けると、あかりは強く首を振って、ハンカチで目を...
偽りとためらい

偽りとためらい(95)

第27章 現在――藤代、ごめん。――ごめんな。 あの夜、最後に茂が何度も謝っていたのを、その時はキスのことだと思っていた。 本当は高志を切り捨てることを意味していたのだと、今なら分かる。今自分が辛いのと同じくらい、きっと茂も辛かったのだろう...
偽りとためらい

偽りとためらい(94)

 それから数日、高志は喪失感を抱えたまま生活した。卒論を進めていると、どうしても茂のことを思い出してしまう。今までだって長期休暇で二か月くらい会わずにいたことも何度もあったのに、その時とは何もかもが違っていた。 その週のゼミでは、教授から、...
偽りとためらい

偽りとためらい(93)

 その後、二人ともほとんど何も話さないまま、少しずつグラスを口に運んだ。 いよいよグラスも空になった頃に、そろそろ店を出ようと切り出すことができたのは茂の方だった。高志はまだ終わりたくなかったが、このままここにいても沈黙が続くだけなのも分か...
偽りとためらい

偽りとためらい(92)

「もう一杯だけ飲んでいい?」 料理をあらかた食べ終わった頃、茂がそう言うので、高志の分も一緒に飲み物を注文した。すぐに運ばれてきたそれを少しずつ口に運びながら、しばらくして茂が切り出す。「お前に言わないといけないことがあるんだ」「……うん」...
偽りとためらい

偽りとためらい(91)

第26章 四年次・12月 その月曜日、夜に茂からメッセージが来た。『明日、夜あいてる?』 読んですぐに、試験結果が12月中旬に出るという茂の言葉を思い出した。『あいてる』『じゃ飯食いに行こう』『いいよ』 それから何度か遣り取りして、翌日の夜...
偽りとためらい

偽りとためらい(90)

 それからも相変わらず毎週顔を合わせたが、その日以降、茂がそれほど落ち込んでいる様子を見せることはなかった。高志は注意深く茂の様子を見るようにしたが、茂が本当に何を考えているのかは分かりようがなかった。ただ、茂が口にする話題は、就活に関する...
偽りとためらい

偽りとためらい(89)

 しかしその後、高志の予想に反して、茂の就職活動は思うように進んでいないようだった。「ほとんど書類選考で落ちてるかなあ。エントリーフォームとか無いとこばっかだから郵送するんだけど、あれ、写真とか郵便代とかも結構ばかにならないよなー。落ちても...
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