偽りとためらい

偽りとためらい

偽りとためらい(78)

 前と同じように部屋を暗くした中で、結局、高志はまた茂の体に触れた。時間をかけて、少しずつ茂の後ろをほぐす。注意深く茂の反応を見ながら手を動かし、指を増やしながら徐々に柔らかくしていった。 半年前の茂には悲壮感があったが、今日はそうではなか...
偽りとためらい

偽りとためらい(77)

 いつの間にか胡坐を崩していた高志の膝の間に、茂が入り込んでくる。至近距離で真正面からまた高志の顔を見、それから視線を落として高志の裸の胸を見た。「……子供の頃って、ご飯たくさん食べてた?」「え?」 突然変わった話題に、高志は一瞬面食らう。...
偽りとためらい

偽りとためらい(76)

 その日、茂は何回も思い出したように高志にキスしてきた。キス自体にはもう慣れていたが、その裏にあるかもしれない茂の気持ちを考えると、高志は落ち着かない気分になった。キスならただの友人だった頃にもしていたから、そのノリなのだろうと考えようとし...
偽りとためらい

偽りとためらい(75)

 金曜日、二人はゼミが終わってからいつものカフェで時間を潰した。夕食時になり、大学を出て歩きながら茂にどこに行きたいか聞かれて、高志は大学生向けの安くて量の多い定食屋を挙げた。茂に「安いなおい」と笑われたが、特に遠慮した訳ではなく、本当にそ...
偽りとためらい

偽りとためらい(74)

 4月が来て高志達は四回生になり、履修すべき授業は金曜日のゼミだけとなった。高志は空いた時間を就職活動とアルバイトに費やした。 茂と顔を合わせるのも週に一度だけになったが、新年度に再会すると、茂は何もなかった頃のように、また明るく高志に話し...
偽りとためらい

偽りとためらい(73)

第22章 四年次・4月 高志は現状維持を選んだ。 それからも何度もあの夜のことを思い返してみたが、その事実に衝撃や驚きはあっても、何故か後悔はなかった。もちろん、何であんなことをしたんだろう、そうせずに済む方法があったんじゃないかと冷静な頭...
偽りとためらい

偽りとためらい(72)

 服を身に着けた後、高志はそのままの暗闇の中で待っていた。やがてバスルームから聞こえていた水音が止まると、ドアが開いて茂が出てくる。バスルームの照明に照らされた茂は、先ほどと変わらずTシャツだけを着た姿で、細い脚が光の加減で余計に細く見えた...
偽りとためらい

偽りとためらい(71)

「……腰上げられるか」 高志が指を抜いてそう声を掛けると、茂は少しだけ躊躇った後、動いた。高志が自分のものにジェルを塗り込めながら扱いていると、茂はいったん四つん這いになりかけたが、やがて両手を自分の下半身に伸ばして、頬と左肩で上半身を支え...
偽りとためらい

偽りとためらい(70)

 体に触れる温もりが離れ、襖の開く音がして、高志は目を開いた。相変わらずの暗闇の中で、横たわったまま開いた襖を眺めていると、すぐに茂が戻ってきてそばにしゃがみ込む気配がする。フィルムを破く音がし、茂の手が高志を数回扱くと、そこにゴムが被せら...
偽りとためらい

偽りとためらい(69)

 何を答えることもできないまま、高志は茂の体から伝わってくる温かさだけを感じていた。茂の言葉は耳に入っていたが、言葉だけが上滑りして、意味を理解するのに時間を要した。自分のすぐそばから、茂の小さな嗚咽が聞こえてくる。その度に肩が小さく震える...
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