偽りとためらい

偽りとためらい

偽りとためらい(8)

 その後、茂と佳代の仲は順調のようだった。 茂と一緒にいることが多い高志も、必然的に佳代と話す機会が増えたが、佳代は周りの人間に気を遣わせることもなく、茂とも他の人間とも楽しそうに喋っていたし、茂も佳代に対してだいぶ気を許しているように見え...
偽りとためらい

偽りとためらい(7)

第3章 一年次・6月 数日後、ざわついた食堂で一緒に昼食を取っていた時に、「付き合うことにした」と茂から報告があった。「そうか」「一応ちゃんとお試しでって言ったんだけど、何か、即OKでない以上は自分のことを好きな訳じゃないのは分かってるから...
偽りとためらい

偽りとためらい(6)

「だから、もしOKしたとして、どういうことになるのかよく分かってなくてさ。学部同じだし、同じ授業取ってたら一緒に受けなきゃいけないのか、とか」 そう考えるとちょっと気が重くて、と言う茂の気持ちは、高志にも何となく分かった。「じゃあ、もしそう...
偽りとためらい

偽りとためらい(5)

「あちい」 その梅雨の合間の快晴の日も、高志は茂と構内を歩いていた。毎週この時間は授業が入っておらず時間が空く。いつもは空き教室で時間を潰しているし、今日もそうすれば空調の効いた中で快適に過ごせたはずだったのだが、茂が「天気がいいから外に行...
偽りとためらい

偽りとためらい(4)

第2章 一年次・4月 たまたま採用担当者が柔道経験者だったのが幸いして、高志の就職は4年次が始まってすぐ、まだ早い時期に、志望していた会社に内定した。 高志も子供の頃からずっと柔道を習っていた。初めは何も分からないまま親に近所の道場に連れて...
偽りとためらい

偽りとためらい(3)

 あかりの耳にすら入るほど、もうそのことが広まっているのか。それは、この座敷に入った途端に空気が変わった理由であり、近くの席の同級生達の態度がぎこちなかった理由だった。 そして、あかりに対する落胆を覚えた。あまり話したことはなかったものの、...
偽りとためらい

偽りとためらい(2)

「矢野さんは? ここ料理余ってるから、箸と皿持ってくれば?」「ううん、もうお腹一杯で。ありがとう」 とはいえ、もともと親しくないから会話のネタもない。高志は料理を口に運びつつ、あかりの言葉を待った。「藤代くん、卒論は順調ですか?」「ああ、も...
偽りとためらい

偽りとためらい(1)

第1章 現在 高志が座敷に上がると、一瞬だけ、ふっと空気が変わった。 めいめいに席の近い者同士で話していたゼミ生達は、高志が目に入ると少しだけ様子を窺うように会話を止めたが、それでもその一瞬の沈黙を高志に悟られまいとするように、すぐにそれぞ...
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