第3章 一年次・6月
数日後、ざわついた食堂で一緒に昼食を取っていた時に、「付き合うことにした」と茂から報告があった。
「そうか」
「一応ちゃんとお試しでって言ったんだけど、何か、即OKでない以上は自分のことを好きな訳じゃないのは分かってるから、当たり前だ、って言われた」
「へえ、何かはっきり言う子だな。……もう誰か聞いてもいいか?」
「あ、伊崎さんだよ」
「ああ」
伊崎佳代は、高志が茂と出会った最初の懇親会の時に近くに座って話していた子だった。そう言えばあの時も楽しそうに話していたし、その後も授業などで顔を合わせればよく話し掛けに来ていたな、と高志は納得する。ストレートの黒髪で細身の、どちらかと言えば可愛いというより綺麗と言われるタイプの女子だった。
「細谷はああいうのが好みなのか」
「え? いや、好みっていうか」
「キレイ系?」
「別に好みって訳じゃ……」
「ありなんだろ」
「いや……まあ」
照れくさいのか、答えにくそうにしている茂を見て、高志はそれ以上からかうのはやめた。
「まあ、少しずつ仲良くなっていけよ。駄目なら駄目で仕方ないし、上手くいけばそれでいいしな」
「うん。あ、一応、会うのは授業終わりとかにしようってことになった」
「あ、まじ」
「向こうも友達いるしな」
話しながら、自分は付き合い始めの頃どんな感じだったか思い返してみる。
高校二年の時、高志は同じクラスで仲の良かった遥香に告白されて付き合い出した。ただ、それ以降も普段はそれまでどおりそれぞれの友達とつるんでいて、部活の後などに待ち合わせて一緒に帰ったりしていたと思う。いかに二人きりになれる時間を作るかばかり考えていたから、逆に教室にいる時にどう過ごすかはあまり気にしていなかった。
もう一年以上付き合って、今では特に気も遣わない関係になったけれど、そう言えば初めの頃は何を話していいかも分からなかったことを思い出す。遥香がよく喋ってくれていたので自分が聞き役になることが多かったけど、後から考えれば、あれは沈黙にならないように遥香が頑張ってくれていたのだろう。
でも茂だったら、相手に頑張らせることなく、楽しく会話ができるに違いない。
「だったら気は楽だな」
「うん」
「でも、それ以外でもちゃんと会う約束とかしてんの」
「あ、一応、今日も4限終わりに落ち合う予定」
佳代は茂が好きなのだから、あとは茂の方で気を許すことさえできれば、親密な関係を構築するのはそれほど難しくないだろう。
そんなことを考えているうちに、茂が時計を見て言う。
「そろそろ行く? 次、大教室だよな」
トレーを持って立ち上がる茂を見て、高志も立ち上がった。