2021-03

偽りとためらい

偽りとためらい(28)

「……伊崎さんから、したいって言ったのか」 高志の言葉に、茂が頷く。 「ここに来た日?」 茂が再び頷いた。 「嫌かって聞かれたから、嫌じゃないって答えた。でもゴムがないって言ったら、佳代ちゃんが持ってるって」 声が、少しずつ小さくなる。「そ...
偽りとためらい

偽りとためらい(27)

 居間に戻ると、座卓の上は片付けられていた。 高志が出てきたのを見ると、茂は立ち上がって「俺も入ってくる」と言った。いったん寝室の方に行き、着替えなどを持って出てくる。ユニットバスの方に行きかけたが、「何か飲む?」と高志に聞いてきた。「炭酸...
偽りとためらい

偽りとためらい(26)

 練習が終わった後、予定どおり20時過ぎに茂のアパートに着いた。食べ物は必要ないと言われていたので、少し考えて、コンビニで缶ビールや缶チューハイを数本買った。前にサークル仲間がビールを置いていったと言っていたから、多分好きなのだろう。 イン...
偽りとためらい

偽りとためらい(25)

 その後、三限の授業に出るために食堂を出て大教室に移動した時、茂の違和感の原因らしきものが判明した。 茂が売店に寄ってから行くと言うので、高志は先に教室に向かった。茂と高志は、空いていれば教室後方の窓側に座ることが多い。扇形に広がる階段状の...
偽りとためらい

偽りとためらい(24)

 ぷよぷよ大会について、今週の金曜日はどうか、と茂に確認されたのは月曜日のことだった。高志の方も特に予定はなかったので、そのまま今週ということになった。その時、茂の様子はいたって普通だったと思う。 今日がその金曜日だ。「……食べないのか?」...
偽りとためらい

偽りとためらい(23)

 きっと、茂だけじゃなく佳代も、長期休暇の間に色々考えたのかもしれない。付き合いだしてからもうかなり経つのに、大学のすぐ近くで一人暮らしをしている恋人の部屋に招かれたことがないということに、何も感じない訳がない。どうやって茂との距離を縮めら...
偽りとためらい

偽りとためらい(22)

第8章 二年次・4月 4月。二回生になり、茂と再会した。お互いの履修科目を確認すると、同じ学科で同じ専攻なので当たり前と言えば当たり前だが、一回生の時と同様に半分以上同じ授業を取っていた。「サークルのやつらがさ、また藤代を呼べって言ってたか...
偽りとためらい

偽りとためらい(21)

「それで俺の話を聞こうってことなら、役に立てそうもない」「いえ……」「さっきも言ったけど、俺はゲイじゃない。噂ではどう言われてるのか知らないけど、そっちには全く詳しくもない」「違います」「何が」「お話が聞きたいというより、お願いがあったんで...
偽りとためらい

偽りとためらい(20)

第7章 現在 忘年会は終了し、ゼミ生達はばらばらと店の前に出て、何を待つともなくそれぞれに喋っていた。そんな中、高志は誰に向けるでもなく「じゃあ」と言い、一人先に歩き出した。止める者は誰もいない。少しだけあかりに目を向けると、目が合った。一...
偽りとためらい

偽りとためらい(19)

 高志が自分の皿に目を落としながら食べていると、茂が誰かに手を振る気配がした。顔を上げてそちらを見ると、少し離れたところから佳代が手を振っている。高志と目が合って、高志にも振ってきた。一つ頷いて返した。「相変わらず仲いいな」「うん? そうだ...
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