2021-03

偽りとためらい

偽りとためらい(18)

第6章 一年次・12月「正月、やっぱり帰ることになったわ」「え? 帰らないつもりだったのか?」 茂が溜息をつきながら言った台詞に、高志は少し驚いて返した。「だって、一週間くらい帰ってまたすぐ戻って来ないとだろ。めっちゃ混んでるし、どうせ試験...
偽りとためらい

偽りとためらい(17)

 学園祭の間、柔道部の練習は通常どおりあったので、高志はその間も大学に行った。二日目にふと思い立って茂のサークルが出しているという模擬店に寄ってみたら、茂はいなかったが、先日会った伊藤や水谷がいたので、少し言葉を交わして、売られていたフラン...
偽りとためらい

偽りとためらい(16)

第5章 一年次・10月 『一人暮らしすることになったよ』と遥香からラインが来たのは、10月中旬のある夜だった。 遥香は電車で一時間半ほどかかる大学に通っている。通えない距離ではないが、たまに「遠い」とか「早起きが辛い」といった話を聞いていた...
偽りとためらい

偽りとためらい(15)

 月曜日にまた茂と会った時に、高志はあらためて週末のお礼とお詫びを言った。「え? 全然いいよ。俺寝ててごめんな。出る時間、聞いとけばよかったと思って」 茂は笑って答える。 土曜日の朝、7時少し前に高志は再び目覚めた。明るくなった部屋の中で起...
偽りとためらい

偽りとためらい(14)

 その日、練習が終わって体育館を出た後、コンビニで自分の夕食と差入れ用の菓子類を買って茂の部屋に向かうと、そこでは既に白熱したぷよぷよ対決が繰り広げられていた。「みんな、藤代が来た!」 玄関で出迎えてくれた茂が、後について部屋に入ってきた高...
偽りとためらい

偽りとためらい(13)

第4章 一年次・9月「藤代、お疲れー」 後期が始まって初日、茂の方が先に高志を見つけ、声を掛けてきた。「細谷。久し振り」「おう。てか、お前焼けてんな」「バイト焼け」「ああ、プールの監視員か。がっつり稼げた?」「まあまあ」 そのまま教室に向か...
偽りとためらい

偽りとためらい(12)

 高志が徐々にはまりつつあるのに気付いたのか、今度は茂は他のゲームに変えようとは言わず、ずっと付き合ってくれた。確かに、これははまるかもしれない。練習次第で上手くなれそうなのがいい。 徐々に強くなってきた敵を相手に高志がどうにか一つステージ...
偽りとためらい

偽りとためらい(11)

 最初の敵が一番弱いのは当然だが、それでも茂のプレイは高度だった。あっという間にステージが終わった。「お前すげえな」 感心すると、「まあ、だいぶやってるし」と照れ隠しのような笑顔で返され、はい、とまたコントローラーを渡される。ビールのせいで...
偽りとためらい

偽りとためらい(10)

「藤代は夏休みも部活あるんだろ?」「あるよ。あとバイト。夏休み中に稼いでおかないとやばい」「お前はいつも忙しいからなー」 普段の高志は、平日は大学の授業と柔道部の練習のせいでアルバイトする時間がない。土曜日も柔道部があり、残る日曜日は基本的...
偽りとためらい

偽りとためらい(9)

 どうにか初めての前期試験を終えた日、二人はそのまま茂の部屋に行った。夕食時より少し早かったため、また食べに出るのも面倒だということになり、少し離れたスーパーに寄って食料や飲み物を購入することにした。 茂の部屋はかなり古かったが、思っていた...
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