偽りとためらい(13)

第4章 一年次・9月

「藤代、お疲れー」
 後期が始まって初日、茂の方が先に高志を見つけ、声を掛けてきた。
「細谷。久し振り」
「おう。てか、お前焼けてんな」
「バイト焼け」
「ああ、プールの監視員か。がっつり稼げた?」
「まあまあ」
 そのまま教室に向かい、隣の席に座る。後期もやはり茂と一緒になる授業が多かった。
「ていうか、お前読んだ? キングダム。どうだった?」
「読んだよ。めちゃめちゃ面白かった」
「だろ!」
 茂は嬉しそうに言い、鞄の中から取り出したものを高志に渡す。
「夏休みの間に最新刊出たからさ、持ってきた。あとこっちがお土産な」
 更に茂から小振りの箱を渡される。
「まじか。ありがとう」
 自分は何もなくて悪い、と謝ると、別にいいって、と茂は笑った。
 再会した瞬間にまた以前と同じノリに戻った茂との会話に、高志は密かに安堵した。夏休み前、最後に茂の部屋で一瞬感じた不安が頭の隅にずっと残っていたのだが、今こうして茂と話していると、どうも自分の考えすぎだとしか思えなくなった。
 その後も久々に再会した同級生達と挨拶を交わしていると、あっという間に時間が過ぎて授業が始まった。
 茂は相変わらず、誰とでも楽しそうに話していた。 

 その日の午後、この時間は別の授業を取っている茂と別れて、授業開始前の教室で高志が座っていると、友人と一緒に教室に入ってきた佳代が高志を見付けて、笑いながら話し掛けてきた。
「藤代くん、ぷよぷよにはまってるんだって?」
「え? いや、一回やっただけだけど」
 二か月前に一度やったきりだから、面白かった記憶はあるが、はまっている訳ではない。
「その一回で、ずーっと何時間もやってたって聞いたよー」
「まあ、4時間くらいやってた」
「長い!」
 少し話した後、佳代は笑いながら友人のもとへ戻っていった。
 ゲームのことは当然茂から聞いたのだろう。佳代の顔を見て、そう言えば茂が休みの間に色々と考えたいと言っていたことを思い出す。何か結論は出たのだろうか。
 机に片肘をつきながらつらつらと色んなことを考えているうちに、教授が来て授業が始まった。

「今度、サークルのメンバーでぷよぷよ大会やることになったんだけど、藤代も来る?」
 夏休み前に二人でぷよぷよをやったせいか、何故か今、茂の周りでぷよぷよが再び流行しているらしい。
「お前ん家で?」
「そう」
「いつ?」
「うちのメンバーは融通効くからさ、もし藤代が来てくれるなら藤代に合わせるよ」
「部活の後だから、行けたとしても20時は過ぎるけど」
「別に大丈夫。先に始めとくし、ゆるくやるだけだから」
 来る? もう一度と茂に聞かれて、少し考えてから高志は頷いた。
「行くよ。いつでもいいけど、まあ金曜日がいいんじゃないか」
「だよな」
 日程は、茂が他のメンバーと決めてからまた教えてもらうことになった。
「来るとしたら、あと三人くらいかな。泊ってってもいいよ。次の日も部活だろ。他のメンバーも結局雑魚寝してそう」
 畳の上だけどな、と笑いながら茂は言う。何時に終わるのか分からないが、次の日も朝から大学に来ることになるので、確かに泊まった方が楽かもしれない。「そうだな、サンキュ」と高志は答えた。

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