きっと、茂だけじゃなく佳代も、長期休暇の間に色々考えたのかもしれない。付き合いだしてからもうかなり経つのに、大学のすぐ近くで一人暮らしをしている恋人の部屋に招かれたことがないということに、何も感じない訳がない。どうやって茂との距離を縮められるかを考えて、茂のテリトリーに少しでも入りたいと思って、部屋に入れてもらう口実を探したのだろうか。
いつもあっけらかんと明るい佳代の態度を思い出す。茂とも高志とも楽しそうに話す佳代の表情。やっぱり自分は他人の表面しか見えていない、と高志は思った。自分が入ったことのない茂の部屋に高志は招かれたと知った時、佳代はどう思ったのだろう。笑いながら、ぷよぷよにはまったのかと高志に聞いてきた時、本当はどんな気持ちだったのだろう。茂も佳代も、その笑顔の裏でもっとずっと複雑なことを考えている。それでも何もないように笑っている。
ふと目を上げると、茂と目が合った。
「お前、頑張れよ」
「……何を」
高志の考えが分かっているのか分かっていないのか、茂はそう聞き返してくる。
茂だって、高志に言わないだけで、あれからも色々と思い考えているに違いない。
でも、今回佳代を部屋に呼んだということは、茂も佳代をもっと受け入れる気になったということだろうか。少なくとも、佳代がどういう気持ちでそう言ったのか、茂なら分かっているはずだ。
「ぷよぷよだよ」
「ああ。まあ勝つけどね俺が」
「あと部屋の掃除も」
「はは、それな」
自分がどうやら茂よりもむしろ佳代に共感しているらしいということに高志は気付いた。好きだから近付きたいという佳代の方がシンプルで分かりやすい。
でも、本当はもう少し茂のことも理解できるようになりたい、と高志は思った。
遥香が、今年度から新しく大学のテニスサークルに入った、と報告してきた。
もともと高校時代もテニス部だったが、自宅から通学している時には時間がなくて諦めており、大学の近くで一人暮らしを始めたおかげで参加する時間ができたらしい。二回生だけど新入生だ、と楽しそうに話している。
ゴールデンウィークの話になった時、高志は連休中に二人で旅行しないかと誘った。二人での旅行は初めてだった。遥香も興味を示し、しばらく行き先などあれこれ話していたが、そのうちに大学の長い夏期休暇の間ならシーズンを外して多少安い時期に行けるのではないかという話になり、最終的に9月に行くことに決まった。行き先は遥香に選んで欲しいと高志が言うと、遥香は嬉しそうに頷いた。