偽りとためらい

偽りとためらい

偽りとためらい(68)

 コンビニから戻ると、バスルームから水音がしていた。高志は靴を脱ぐと、冷蔵庫から缶チューハイを一本取り出して、居間に戻った。 飲みながらしばらく待っていると、茂がバスルームから出てきた。高志に気付く。「悪い。タオルと、何か着替え借りてもいい...
偽りとためらい

偽りとためらい(67)

「今話してることと関係あるのか?」 何のことだ、とは茂は聞かなかった。「どうすればいいのか分からないって、俺のこと? 何か別のこと?」「……」「言いたくない?」 高志はしばらく茂の答えを待ったが、茂は口を開く様子はなかった。 俯いて口を閉ざ...
偽りとためらい

偽りとためらい(66)

 一通り食べた後、また新たな具材を鍋に投入してしばらく煮込む。それを何回か繰り返し、ある程度腹も満たされた頃、肉類は食べ終えたが、野菜が大量に残っていた。「多いな」「はは、ごめん。量がよく分からなかった。いいよ置いとけば」 茂は既に食べるペ...
偽りとためらい

偽りとためらい(65)

第21章 三年次・12月 次の日、高志が19時過ぎに茂の部屋に行くと、座卓の上にはカセットコンロと土鍋が置かれていた。「鍋?」「そう。たまにはいいだろ。すぐ食べる?」「うん」 土鍋には既に乳白色の出汁が入っており、茂がカセットコンロの火をつ...
偽りとためらい

偽りとためらい(64)

 それからしばらく、高志も表面上は今までどおりに振舞った。茂がやるように自分もやってみようと思ったのだ。しかし、自分の本音を顔に出さないというのは予想以上に難しかった。ともすれば黙り込んでしまう。そうしながら自分の本音を自覚するにつけ、まる...
偽りとためらい

偽りとためらい(63)

 翌日、2限の授業が始まる前、高志と茂は大教室のいつもの定位置に座って授業の開始を待っていた。隣の席では茂が専門学校のテキストを広げ、一文を読んでは暗唱することを繰り返している。 最近は茂が忙しくて、伊藤達とはしばらく会っていなかった。だか...
偽りとためらい

偽りとためらい(62)

第20章 三年次・11月 11月中旬のその日曜日、高志が朝からバイトに入ると、咲がいた。「石川さん。珍しいですね、日曜に入るの」「うん。倉重さんが体調不良みたいで、代わって欲しいって頼まれたの」 高志のその日の勤務は朝から夕方までだったが、...
偽りとためらい

偽りとためらい(61)

「藤代、夏休みに彼女とかできた?」「え?」 急な話題転換に反応が遅れ、それから一瞬だけ咲のことが思い出されたが、高志はすぐに首を振った。「できてないけど」「一緒に花火大会に行ったの、女の子じゃないの?」「そうだけど、そんなんじゃない。単にバ...
偽りとためらい

偽りとためらい(60)

 次の日、茂の態度はほぼ元に戻っているように見えた。木曜日の授業も金曜日のゼミも、以前のように茂は高志の隣に座った。普通に話すし、時折笑顔も見せた。佳代に関する話題は注意深く避けながらも、高志も意識して前のままのノリで話すようにしていた。 ...
偽りとためらい

偽りとためらい(59)

 高志がインターフォンを押すとしばらくしてドアが開いた。茂は高志の顔を見ると、視線を落として聞いた。「……あがる?」「うん」 高志が答えると、茂はそのまま居間へと戻っていく。後について高志も入ると、座卓の上には専門学校の教材らしき問題集が広...
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