偽りとためらい

偽りとためらい

偽りとためらい(88)

第25章 四年次・9月 9月末に後期の授業が再開した。 初回のゼミの日、高志が少し早めに教室に向かうと、茂はもう座っていた。入ってきた高志を見て笑う。「藤代。お疲れ」「細谷」 その笑顔を見て、高志は思わず安堵した。この夏季休暇中、茂とはほと...
偽りとためらい

偽りとためらい(87)

 高志が再び少しずつ腰を動かし始めると、茂も黙ってそれを受け止めた。この体勢なら、茂が自分に揺さぶられている様も、その表情も、全てを見ることができた。時折じっと高志の顔を見ようとしては、突き上げに眉を寄せたり、口を固く閉じたりしている。その...
偽りとためらい

偽りとためらい(86)

 今日も高志は茂のその変化を待った。茂の反応に注意を払いながら、高志は時間をかけて少しずつ動きを増していった。「……っ」 いつも以上に声を押し殺していた茂の口から、ごく小さな喘ぎが洩れた。初めよりもかなりスムーズになった自分の動きに合わせて...
偽りとためらい

偽りとためらい(85)

「それも脱げよ」 いつものように上だけを着たままの茂に、高志はそう言った。その言葉に、背を向けた茂が振り返る。「……何で」「邪魔だから」 言い放つ高志に、茂はなおも躊躇した。何かを言い返そうとする気配が伝わってくる。「別に平気だろ。女じゃな...
偽りとためらい

偽りとためらい(84)

「ふう。ちょっと待って」 何度目かでゲームが終了した時、茂がそう言って、コントローラーを床に置いた。ぷよぷよを始めてから気付けば二時間以上経っていた。両腕を上にあげて伸びをし、数秒後に脱力する。一つ息をつく。「疲れたか?」「いや、大丈夫」 ...
偽りとためらい

偽りとためらい(83)

 高志と入れ違いに入った茂も、しばらくしてバスルームから出てきた。冷蔵庫の缶ビールを取り出してから居間に来て高志の横に座る。髪が濡れていて、タオルを肩に被っている。「やるか」 音を立ててプルトップを開けて、茂は一口飲んだ。「うわ、何か月振り...
偽りとためらい

偽りとためらい(82)

 会計を済ませると、店を出たところで茂が笑って「ご馳走様」と言ってきた。その表情を眺めていると、茂が気付く。「ん? 何」「いや」 そのまま、どちらともなく茂の部屋の方向へと歩き出す。「藤代、たまに人の顔じっと見てくるよな」「え? そうか?」...
偽りとためらい

偽りとためらい(81)

第24章 四年次・8月 8月初旬のその日、高志が夕方にバイトを終えると、茂から『試験終わった』とラインが入っていた。すぐに『お疲れ』と返す。しばらくすると、更に返信が来た。『打ち上げ付き合えー明日かあさって』『明日バイト後いける』『何時くら...
偽りとためらい

偽りとためらい(80)

 ゼミで高志の番が回ってきた時に、高志はそれまでに興味を覚えていたテーマをレジュメにまとめて発表した。レジュメはそれほど長いものではなかったが、まとめることによって少し頭が整理され、その中で取り上げた論点の一つに絞って再度進めてみるように教...
偽りとためらい

偽りとためらい(79)

第23章 四年次・7月 翌朝、案の定、茂はいつもの茂だった。 昨日の夜にあったことなんて忘れたような顔で、能天気に高志に挨拶し、話し掛けてきた。高志もなるべく何もなかったように接したが、上手くできている自信は全くなかった。そしてそれにすら気...
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