偽りとためらい(82)

 会計を済ませると、店を出たところで茂が笑って「ご馳走様」と言ってきた。その表情を眺めていると、茂が気付く。
「ん? 何」
「いや」
 そのまま、どちらともなく茂の部屋の方向へと歩き出す。
「藤代、たまに人の顔じっと見てくるよな」
「え? そうか?」
「うん」
 通り道にいつも寄るコンビニが見えたので、そのまま中に入り、真っ直ぐにドリンクのコーナーへと向かった。
 茂はよく笑う。しかしその笑顔の裏でいつも高志には想像できないことを考え、その笑顔に似つかわしくないことを平気で口にする。こうやって外でその表情を見ればただ気の良い友達にしか見えないのに、部屋に行けばおそらく今日も高志に何かおかしなことを言ってくるのだろう。
「それ、見ながらいつも何考えてんの?」
「何も考えてない。というか見てるつもりがなかった」
「無意識かよ」
 缶ビールと缶チューハイを何本か持ってレジに向かう。できれば何も言わないで欲しいのだけど、そんなに都合良くはいかないだろうな、と高志は諦めと共に思った。

 茂の部屋に入ると、既にぷよぷよがセットされていた。真夏に閉めきっていた部屋はひどく暑い。
「やっとゲーム解禁か」
 茂が嬉しそうに言いながら、エアコンをつける。
「お前、先にシャワー浴びちゃえば? その間に涼しくなってると思うし」
「……うん」
 何でもないように言う茂に対して、高志は少し躊躇ってから頷いた。この後のことを考えて少しずつ気が滅入ってきたのを、何とか顔に出さずに隠す。
 昨日返信しなかったにも関わらず、茂は今日泊まるかどうかを高志に確認してこない。そのことに違和感を覚える。茂のことだから全て分かってやっているのだろう。しかし高志自身、一応は泊まるための準備をしてきていたので、結局はそのままバスルームに向かった。
 そしてふと、こういう高志の言動はもしかしたらそれほど嫌がっていないように見えるのかもしれない、ということに初めて思い至った。


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