偽りとためらい(66)

 一通り食べた後、また新たな具材を鍋に投入してしばらく煮込む。それを何回か繰り返し、ある程度腹も満たされた頃、肉類は食べ終えたが、野菜が大量に残っていた。
「多いな」
「はは、ごめん。量がよく分からなかった。いいよ置いとけば」
 茂は既に食べるペースが落ちている。高志は今鍋に入っている分だけ食べ切ることにし、自分の皿に取った。茂が火を消す。だいぶ量の減った出汁が鍋の底に残っている。
「……今日、何時に帰る?」
 高志が食べていると、茂が聞いてきた。今や完全に箸を置いた茂は、ビールを少しずつ飲んでいる。
「え? 別に何時でもいいけど。まあ適当に」
「そう」
「何?」
 高志が食べながら聞くと、茂は首を振った。
「……お前、昨日何か怒ってた?」
 少しの間を置いてから切り出した茂に、高志は箸を止める。茂の顔を見ると、茂もじっと高志を見ていた。軽く溜息をついて、再び食べ始める。
「まあ、そう見えたのかもしれないけど」
 高志は最後の一口を食べると、箸を置いた。ビールを一口飲む。おそらくこれが茂の本題で、高志にとっても話したかったことだった。
「俺なのか。お前じゃなくて」
「え?」
「俺が何かを怒ってた訳じゃない」
 茂が眉をひそめてこちらの様子を窺っているのを見ながら、高志は静かに話し出した。
「俺、しばらくお前の真似をしてみた。でも難しかったよ。やっぱりお前はすごいなと思った」
「え……何? 真似?」
「だから、それがお前のやり方なら俺がどうこう言う話じゃない。それがお前のいいところでもあるだろ。本音を言えなんて他人が強制するものでもないし。ただ、いざ自分が当事者になると、笑顔で隠されたら、こっちはどうしようもなくて困った」
「……何を言ってるんだよ」
「それは、しらを切ってるのか、本当に分からないのか、どっちなんだ」
 高志が真正面から茂を見て静かにそう言うと、茂は絶句する。
「……本当に分からない」
 茂の答えを聞いて、高志は一つ頷くと、目を逸らす。
「そうか」
「何? しらを切るって……?」
「お前さっき、俺がここに来るの久し振りだって言ってたけど」
 目を逸らしたまま、高志は淡々と言った。
「お前が呼びたくなかっただけじゃないのか、って話」
「え……? 何? 違う」
 茂は首を横に振る。
「違うんだな。じゃあいい。俺の勘違いだった」
「藤代、違う」
「分かったよ」
「違うって!」
 茂の必死の声音に、高志は顔を上げた。
「伊藤達のことなら、前に鍋しに来た。もしそのことを言ってるのなら、お前を呼ばなかったのかあいつらにも聞かれたけど、鍋なんて途中から来て残り物食っても美味くないだろ。だから、それだけで」
「それだけなんだな」
「……」
 どうして自分は茂にこんな顔をさせているのだろう、と高志は思った。本当は大抵笑っているやつなのに。少し前にもあった。確か高志が茂を怒らせた後、ここに謝りに来た日――
「そう言えば、お前あの時『どうすればいいか分からない』って言ってたけど、あれって何のことだった?」
 ふと思い出して、高志は言った。あの時も、話し合いが消化不良のような、何か忘れているような気がしていた。

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