旭が夕食をおごると言うと、圭一は頑なに拒んだ。
「いいよ。自分で払うから」
「でも、バイト代出たし」
「せっかく稼いだんだから、自分のために遣えって」
「これも自分のためだから」
「変な気遣わなくていいから、まじで」
「俺がおごりたいんだよ」
口調を強めると、圭一は考えるように口をつぐんでから、やがて静かに言った。
「彼女にはおごってたのかもしれないけど……俺らの間では、そういうの無しにしないか」
旭は頷いた。
「俺もそれがいいと思ってる。でも今日だけ別」
「何で?」
「俺、バイト辞めずに続けられたの、お前のおかげだし」
「……」
「最初とかすごい嫌だったけど、お前のこと思い出して、俺も頑張ろうって思ってたし」
それでも結局、セクハラを言い訳にして辞めてしまったけど。
「そん時から、バイト代でUSJ行って、そんでバイト代でお前とご飯食べるって思ってたから」
そう話す旭の表情を見ていた圭一は、少し躊躇った後に「分かった」と頷いた。
「じゃあ、ご馳走んなる。サンキュ」
「うん」
旭はほっと表情を緩めた。
「何食べる?」
「どこも混んでそうだよなあ」
「それか、ちょっと遅くなるけど、出てから食べる?」
「お前、中で食べてみたいのとかないの」
「んー、ていうかよく知らないんだよな、限定メニューとか」
「俺も。じゃあ外で食おっか」
「うん」
その後は暗くなるまで遊びたおし、パレードや花火も観て、時間ぎりぎりに外に出た。どこかで夕食にしようと駅までの道沿いに連なる飲食店ものぞいてみたが、どこも混んでいる。結局、地元まで戻って近所のファミレスで食事することにした。
「――ご馳走様」
旭が会計を済ませると、すぐに圭一がそう言う。
「うん」
二重の扉をいちいち圭一が開けてくれるので、旭はそそくさと通り抜ける。外に出ると、圭一が旭の腕を掴み、道路とは反対側に歩き出した。
「こっち」
「え?」
裏手には駐車場が広がっている。見る限り、人がいる様子はない。圭一の考えていることは旭にもすぐに分かった。
建物の影に入ったところで旭の手を離し、圭一がこちらに向き直る。見返した圭一の顔は街灯に照らされて左側だけが明るかった。何も言わない旭の頬に手が触れ、それから顔が近付いてくる。旭はいつものように目を薄く閉じた。やがて唇が控えめに重ねられた。