知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(14)

「――」 びく、と少しだけ体が動いたのは圭一にも伝わっているはずだけど、圭一はやめなかった。そっと浅く重なる。さっきまで密着していた体が離れて、熱を失い、強く掴まれている肩だけが熱い。柔らかさを確かめるように表面をなぞっていた唇は、やがて少...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(13)

 ふいに圭一が立ち上がる。旭も自然とその動きを目で追う。どこかへ行ってしまうのかと思ったが、すぐ近くに膝をついた圭一を見て、旭は圭一が何をしようとしているのかを理解した。 理解しながら、旭は動かなかった。圭一をこれ以上怒らせたくなくて、その...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(12)

「……お前、柏崎くんが好きなんじゃないの」 何を言っていいか分からず、とりあえずそんなことを口にした。答えはもう分かっているのに。「そう思われてるんだろうなって思ってたけどさ」 圭一が苦笑する。「でももしそうでも、お前、別に気持ち悪いとか思...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(11)

「――圭一」「ん?」「……俺さ」 圭一なら受け止めてくれるかもしれない。そんな甘えも自覚しながら。「あんな軽々しく付き合ったりするんじゃなかったって……今は思ってて」 言いながら、頭の中には自然とあの日見ていた光景が甦ってきた。 彼女ができ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(10)

 マンションに着くと、圭一が慣れた様子でオートロックを解除した。旭も後に続き、いつものようにエレベーターではなく階段で三階まで上る。階段を上がってすぐ目の前にあるドアが圭一の家だ。旭がここに来るのは数ヶ月振りだった。 玄関を入ってすぐの圭一...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(9)

3.圭一の部屋 それ以降、圭一と柏崎が一緒にいる時に出くわすと、柏崎もその場に留まることが多くなった。そしてたまに三人で話したり、学食で昼食を取ったりした。そうこうするうちに、柏崎と旭の間にも徐々に友人と言ってもよいような気安さが生まれてい...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(8)

「もしさ、仮に柏崎に告白されたとしたら、お前、どうする?」 旭の気も知らず、圭一が更におかしな質問をしてくる。「え? だって彼氏いるんだろ」「じゃなくて、柏崎みたいなやつにってこと。仮定の話だよ」「それは、さすがに断るんじゃね」「でもお前、...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(7)

「……」「……」 残された二人で、しばらく無言で弁当を口に運ぶ。会話がなくなると、途端に今まで聞こえていなかった遠くの学生たちの喧騒が風に乗って耳に入ってきた。 要するに、あれだ。多分あの後、教室で圭一は実際に旭のことを柏崎に伝えた。それを...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(6)

 旭は静かに混乱していた。 何か言った方がいいのかもしれない。でも何を? いいんじゃない、とか何とか? そもそも、いいとか悪いとか言う権利も別になくないか? 旭に考える余地があるとすれば、旭自身がどう思い、どう反応するかだけだ。とりあえず、...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(5)

「もう6月だぞ。全然知らなかったっつの」「別れたっていうか、何か自然と会わなくなった感じ」 春休み中、そう言えば連絡がないな、くらいは思っていたのだけど、4月に一学期が始まってからふと廊下で顔を合わせた時に向こうが目を逸らして素通りしていっ...
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