3.圭一の部屋
それ以降、圭一と柏崎が一緒にいる時に出くわすと、柏崎もその場に留まることが多くなった。そしてたまに三人で話したり、学食で昼食を取ったりした。そうこうするうちに、柏崎と旭の間にも徐々に友人と言ってもよいような気安さが生まれていた。
本当は圭一に気を利かせて二人にしてやろうなどと思ったこともあったのだけど、当の圭一が必ずと言っていいほど旭を引き留めるので、大抵の場合はうまくいかなかった。そういう時、旭はこっそりと圭一の柏崎に対する言動を観察したりしたが、柏崎に対する圭一の言動は、友人としてごく自然なものだった。圭一にしては隠すのが上手いな、などと変に感心するほどだった。
「――黒崎」
ある月曜日、その日も三人で学食の定食を食べてから教室に戻ろうと歩いていた時、先を歩く柏崎から少し遅れて歩きながら、圭一が話し掛けてきた。
「ん?」
「今日、暇?」
「放課後? うん」
「んじゃ遊ぼうぜ」
「お前、部活は?」
「昨日練習試合だったから、今日は休み」
「ああ、そっか。おっけ。あ、でも俺あんま金ないけど」
「おう。いつものことだろ」
ちょうど振り返った柏崎の方に歩を早めながら、圭一は軽く笑って「終わったら下駄箱な」と言った。
そして廊下で別れ、それぞれの教室へと戻った。
放課後に下駄箱で落ち合った後、財布の中身が心許ない旭を圭一は自宅に誘った。圭一の家は両親ともフルタイムで働いているため、夜までは誰もいなくて行きやすい。中学の頃もよく遊びに行っていた。
「そう言えば圭一と遊ぶのってちょっと久々だなー」
一緒に圭一の家まで歩きながら、何となく思ったことを口に出すと、圭一が一瞬旭を見た後、少し視線を外して言った。
「まあ、彼女いると思ってたし」
それを聞いて、ああ、気を遣ってくれてたのか、と今さら気付く。それで別れたことを伝えた時にあんな反応だったのか。
「……もう独り身だからいつでも暇だよ」
「はは。じゃあまた俺とも遊んで」
「おうよ」
わざと乱暴にそう答えると、圭一が軽く笑う。
「柏崎くんとは? 遊んだりすんの?」
「あんまないな。あいつも部活やってるし」
「ああ、バスケ部だっけ?」
「そう。あ、この前たまたま部活終わりに会ってマック行った」
「へえ。まじで仲良くなったんだな」
「まあ、仲良くっていうか……」
少しだけ口ごもるような圭一の様子に、旭は気付かずに話し続けた。
「ぱっと見、全然タイプ違うように見えるけどなー。てか、まあ俺もそうだけどさ」
「タイプとか関係ないだろ」
「だよな。柏崎くんも、イケメンのくせに普通にいいやつだし」
そう言うと、圭一が笑って「気に入った?」と聞いてくる。ああ、好きなんだな、とまた思う。
「まあね」
「そんじゃ今度三人でどっか行こうぜ」
「いや、それはお前、二人で行っとけよ」
「え? 何で」
しまった。うっかりと口を滑らせた。
圭一は少し訝しそうに旭を見たが、それ以上は何も言わなかった。