知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(44)

その数日後、四時間目が終わって鞄から弁当袋を取り出した旭は、かすかに教室の空気がざわめいた気がして、ふと顔を上げた。 柏崎が入り口のところに立っている。クラスメイトからの注目を意にも介さず、すぐに旭を見付けて、真っ直ぐにこちらに近付いてくる...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(43)

13.柏崎 「黒崎!」 階段を降りようとしていたところをぐいっと後ろから腕を引かれて、旭は反射的に振り向いた。振り向く前から誰なのかは分かっていた。「……圭一」 その後ろには柏崎もいて、こちらを見ている。圭一はいつものように明るく笑っている...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(42)

最後に見せてくれた笑顔だけが、その夜の旭の拠り所だった。 何度も思い返して自分を勇気づける。予想はしていたが、いつも来るラインも今日は来なかった。――明日また圭一に会ったら、ちゃんと言おう。嫌なんかじゃなかったって。 自分が圭一を受け入れた...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(41)

その後、しばらくしてからようやく旭は体を起こした。廊下に出ると、部屋のドアを開くのを見ていたらしい圭一がすぐにリビングから出てくる。そのままバスルームに案内してくれて、タオルも出してくれたが、結局、一度も目が合わなかった。 玄関から出た時、...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(40)

一人取り残されたベッドの上で、旭は寝返りを打つように横を向いて丸くなった。ぎゅっとお尻に力を入れて精一杯閉じるが、開いたままの感覚は元に戻る気配がなかった。今になってひりひりとした痛みを感じ始める。――失敗した。 圭一を怒らせた。 頬に触れ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(39)

圭一の口が離れ、代わりに手が何度か屹立をゆるく扱く。その手も離れて圭一が動く気配がしたので、旭は目を開けた。 ベッドの下に手を伸ばした圭一が、何かを取り出す。「……何?」「ジェル」「買った?」「うん」 柏崎に教えてもらった、と圭一が呟くよう...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(38)

――本当に、圭一とセックスするのか。 こうやって裸にされて。 組み伏せられて。 愛撫されて。 何故か、頭の中では元カノと行ったホテルの部屋の光景を思い出していた。あの時の自分は今の圭一と同じだ。あの時自分の中に生じた激しい興奮が、今の圭一の...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(37)

背中に触れていた手がTシャツの裾をくぐり、初めて旭の素肌に触れる。人に触られる時だけ異様に敏感になる場所を撫でられ、旭は思わず息を詰めた。呼吸を止めて全身に力を込め、くすぐったいようなその感覚に耐える。 何度も背中を撫でた後、圭一の手が下に...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(36)

12.圭一の部屋2 『明日、うち来る?』 前日に、圭一は旭の意思を再確認するようにラインを送ってきた。既に腹をくくっていた旭は、『行く』とだけ返した。 その日も家で昼食を済ませた後、旭は念の為シャワーを浴びてから圭一のマンションへ向かった。...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(35)

今日も、唇を離した後に圭一は旭の体を抱き締めてくれた。昼間に汗をかいたからか、圭一の匂いがいつもよりも強い。でもそれが全く嫌ではなくて、むしろ安心感が強まるような気すらする。――もう自分の中で結論は出ているのかもしれない。 少し前から何とな...
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