一人取り残されたベッドの上で、旭は寝返りを打つように横を向いて丸くなった。ぎゅっとお尻に力を入れて精一杯閉じるが、開いたままの感覚は元に戻る気配がなかった。今になってひりひりとした痛みを感じ始める。
――失敗した。
圭一を怒らせた。
頬に触れるシーツからは洗剤の微かな香りがする。きっと、このために圭一があらかじめ替えてくれたのだろう。それなのに。
――圭一を怒らせた。
圭一の気遣いを、旭が無視したから。
でも。
「……初めはちょっとくらい我慢しないと、絶対に入らないって……」
圭一のものを受け入れようと思っただけなのに。
少しの肌寒さを感じたが、動く気になれなくて、旭は更に体を丸めた。圭一はなかなか戻ってこなかった。見捨てられたような気がする。そうじゃない、トイレで興奮を収めるのに時間が掛かっているだけだ、そう考えて不安を押し殺す。寒い。陰部に塗られたジェルが冷えてすうすうする。戻ってきた圭一にちゃんと謝ったら、また前みたいに抱き締めてくれるだろうか。あの温かい体で。
ずっとそのまま待っていると、ようやくドアが開いた。旭が見上げると、圭一は一瞬旭を見て、すぐに目を逸らした。
「……圭一」
その拒絶の仕草に、旭は謝罪の言葉を見失う。
「……痛い?」
圭一がこちらを見ないまま部屋の中に入ってくる。ベッドの足元に畳まれていたタオルケットを広げ、横たわったままの旭の体に掛けた。
「動けないのか」
「……違う」
「そのまま休んでていいから」
床に落ちていた旭の衣類を拾い上げ、まとめてベッドの上に置く。
「動けるようになったら風呂で洗えよ。拭くだけよりその方がいいだろ」
「圭一」
「終わったら送ってく」
そう言った圭一は、再び部屋から出ていこうとした。
「どこ行くんだよ」
「リビングにいる」
「……何で?」
圭一が何か言ったが、聞こえなかった。そして問い返す前に、圭一は再び出ていってしまった。
知らぬ間に失われるとしても(40)
