知らぬ間に失われるとしても(38)

――本当に、圭一とセックスするのか。
 こうやって裸にされて。
 組み伏せられて。
 愛撫されて。
 何故か、頭の中では元カノと行ったホテルの部屋の光景を思い出していた。あの時の自分は今の圭一と同じだ。あの時自分の中に生じた激しい興奮が、今の圭一の中にもある。
 それから、バスルームの鏡に映った自分の体を思い出した。
 圭一は本当にあんなものに欲情しているのだろうか。
 けれど、首に、肩に、胸に、腹に、さっきから絶え間なく触れ続ける圭一の手と唇と舌の感触が、それが事実だと伝えていた。圭一の息が速くなっているのが聞こえる。乳首を噛まれる度に、ぞわりと不安の混じった快感が腹の底へと伝わっていく。そうやってわずかに反応し始めていたそこに、やがて圭一の手が触れた。
「……っ」
 まだ柔らかいそれにそっと触り、持ち上げて、指で何回か扱く。旭はその手が圭一のものだということを忘れようとした。ただ感触だけに集中し、快感に身を委ねようとした。そうして少しでも圭一の熱情に追いつくことができれば。そう思うのに、どこかでまだ抵抗感を捨てきれていない。頭の中ではホテルのベッドの上で自分が夢中で腰を振っている。何故か俯瞰的視点から自分で自分を見下ろしている。あれじゃない。今の自分は、その下で仰向けに体を明け渡している方だ。どんな顔をしているかは見えない。大きく広げられた脚だけが見える。今から自分もああなる。もうすぐ圭一に抱かれる。あんな風に。
「あ……!」
 ぬるりと湿った粘膜に包まれる感触に、旭は思わず声をあげる。なかなか完全には立ち上がろうとしない旭のそれを、圭一が口に含んだ。その後、舌で何度も舐め上げられる。ぐんと立ち上がったのが自分でも分かった。激しい羞恥で、ちょっと待って、と言いそうになるのを何とか飲み込む。違う、これでいいんだ。変なことを考えずに気持ち良くならなければ。圭一はそれを求めているはずだから。
 圭一が旭の両膝を抱え上げるように割って、間に身を滑り込ませた。更に念入りになった口淫に、腰が動きそうになるのを必死に堪える。手の甲を口に当てる。何があっても圭一に委ねる覚悟をし、旭は目を閉じたまま浅い呼吸を繰り返していた。

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