2021-07

知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(54)

「そう言えば、今週土日、柏崎がうち泊まりに来るんだけど、旭も来る?」 屋上で日陰に腰を下ろして座ると、弁当を広げながらすぐに圭一がそう言う。「えっ、行く」 旭が即答すると、圭一はおかしそうに笑った。「親戚の結婚式で、親が泊まりで出掛けること...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(53)

16.柏崎2「旭」 次の日、昼休みに旭が弁当を持って教室を出ようとすると、同じく昼食を手に持ってこちらに向かってきていた圭一と柏崎に廊下で出くわした。「行く?」「うん」 何気ない圭一の言葉に、旭も何気ないふりをして頷く。本当は、少し緊張しな...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(52)

「――圭一」「ん?」「さっきの、もう一回」 旭が再び圭一の胸に体を寄せると、戸惑ったような数秒の間の後に、圭一の腕が再び背中に回った。「……俺は、こうしてもらうのが好き」「まじ?」「うん」「……彼女としてたってこと?」「してない」 少しだけ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(51)

15.圭一の部屋3 沈黙が続いていた。 エアコンの動作音すら耳に入る静けさ。肌に触れる冷涼な空気と圭一の温かい体。そのどちらもが快い。 旭は、再び圭一の腕に包まれながら、そのゆっくりと上下する胸の動きに身を任せていた。突然失われたものが再び...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(50)

「――ちょっ」 咄嗟に、圭一の手が旭の体を支える。「……黒崎……?」 戸惑った声。掴まれた肩をそのまま押し返されるかと思ったが、その手は動かなかった。「……いち」「大丈夫か?」 背中に回す勇気の出ない手で、せめて圭一の服を掴む。「も、泣くな...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(49)

「……っ」 嗚咽が出ないように全身に力を込める。涙が出ないように瞼に力を込める。それでもどうしても胸の辺りが震え出して、吐く息も少し震えた。前髪を引っ張って、無意識に顔を隠す。「――黒崎」 圭一の困惑が声に表れている。それはそうだ。訳も分か...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(48)

「――圭一」「ん?」「お前、俺に何か言いたいことある?」 一縷の望みにすがるように、旭はそう問い掛ける。「え? 俺?」「うん」「お前じゃなくて?」「うん」「今聞いてること以外にってこと?」「うん」「ないよ。別に」 圭一はあっさりとそう言い切...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(47)

「で、何する? あ、ゲームする?」「……ゲームしない」 靴を脱ぎながら明るい声でそう聞いてくる圭一に、旭は思わずオウム返しにそう答えてしまう。 もうずっと、一緒にいる時にゲームなんかしなかった。付き合っていた時なら特に。でも多分、今の旭とは...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(46)

14.川沿いの道 その日の授業が全て終わった後、旭はいつものように少し時間を潰してから教室を出た。 廊下で圭一に出くわさないように注意を払うのは、もう癖になっている。圭一は授業が終わったらすぐに部活に行くはずだから、もう校舎にはいないだろう...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(45)

「こんなこと聞いていいか分かんないけどさ。やったんじゃないの、原と」「……」「原から潤滑剤について聞かれたから、教えといた、ってそれだけなんだけど」「……上手くいかなかったんだ」「ああ……そっか」「それで圭一が怒って……次の日になったら、全...
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