知らぬ間に失われるとしても(54)

「そう言えば、今週土日、柏崎がうち泊まりに来るんだけど、旭も来る?」
 屋上で日陰に腰を下ろして座ると、弁当を広げながらすぐに圭一がそう言う。
「えっ、行く」
 旭が即答すると、圭一はおかしそうに笑った。
「親戚の結婚式で、親が泊まりで出掛けることになったんだけどさ。お前に言えてなかったから」
「あ……そか」
 旭が昨日まで圭一を避け続けていたせいだ。その思考を察したように、圭一は柔らかい声で問い掛ける。
「だいぶ元気出た?」
「……うん」
「もし何か話したいこととかあったら、いつでも聞くし」
 圭一は自分が原因であることも、自分がそれを解決したことも知らない。旭が何も言えずにただ頷いたところで、横で聞いていた柏崎が口を開いた。
「ていうかさ。俺はもういいから、せっかくだし二人で遊べば」
 あっさりとした言葉に、旭は慌てて引き留める。
「えっ何で。行こうよ」
「駄目。来い」
 図らずも圭一と言葉が重なった。もしかして気を遣わせてしまっただろうか。
「もともとそっちが先に約束してたんだしさ。俺も柏崎くんと遊ぶの初めてだし」
「こいつお前のこと好きなんだから、来てやれよ」
 旭に加えて、圭一までが冗談のような内容を真顔で言う。柏崎は無表情に二人の顔を見返した後、「まあ、別にいいけど」と返答した。
「柏崎くんて家どの辺?」
「H町」
「ってどの辺だっけ?」
「黒崎くん達とは逆。坂下りたら反対側に曲がって、S駅の方」
「ああ、大体分かった」
「どっかで待ち合わせするか? うち分かんないだろ」
 そう言った圭一の言葉に、柏崎は首を振る。
「別にわざわざ出てきてもらわなくても、住所送ってもらったらナビで調べるから」
「あ、そんじゃ俺と待ち合わせしようか。ついでだし」
 旭は何も考えずにそう提案した。圭一も頷く。
「ああ、いいじゃん。そうすれば」
「お前んちには何時に行けばいい?」
「うちは別にいつでも。まあ昼飯食った後くらい?」
「柏崎くんは何時頃がいい?」
「じゃあ14時くらいかな」
「分かった。坂道下りた後、ちょっと行ったらコンビニあるんだけど、分かる?」
「うん」
「じゃ、その前に14時な」
「OK」
 無表情なままで、それでも了承して頷く、その仕草の裏側に垣間見える柏崎の内面の素直さのようなものを、旭はいつからか好ましく思うようになっていた。
「あ、そしたらライン交換しよ」
 ふと思い付いて旭がスマホを手に取ると、柏崎もまた自分のスマホを取り出す。その場で二人はお互いの連絡先を登録した。

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