2021-06

知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(19)

「――どういう意味で?」「付き合いたいって意味で」 淡々と答えた旭に、圭一は何故か苦しそうな顔をした。あの日、圭一の部屋で見せたのと同じような。「……何でそんなこと聞くんだよ」 初めて圭一が目を逸らしたが、旭は何も答えずに待った。しばらく沈...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(18)

6.発覚 週の明けた月曜日、授業が終わった後に教室を出ると、こちらの教室まで迎えに来た圭一と廊下で鉢合わせた。「あ、終わってた?」「おう」「柏崎くんは?」「さあ。もう帰ったんじゃね」「そっか」 そのまま一緒に学校を出て、圭一の家に向かう。こ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(17)

「お前、昨日そんな大変だったの? 宿題」 翌朝、また下駄箱の前で出くわした圭一が、笑いながら聞いてくる。「え? いや、別に」「珍しくラインなんかしてくるからさ、よっぽどかと思ったわ」 その少し揶揄するような圭一の言葉に、旭はかすかにいらっと...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(16)

5.違和感――とは言え、昨日の今日でどんな顔をして圭一に会えばいいのか。 翌日、絶えず前方に圭一の姿を探しながら、旭はいつもの急な坂道を歩いていた。見慣れた背中は今のところ視界の中にはなく、歩いているうちにそのまま校門前に着いてしまう。ほっ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(15)

4.ぐるぐると 圭一と、付き合う。 数時間前に触れた圭一の唇と舌の感触を何度も思い出しながら、旭は自室のベッドの上に寝転がって天井を見上げていた。圭一に言われたとおり、というより言われるまでもなく、帰宅してからも旭はそのことについてずっと考...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(14)

「――」 びく、と少しだけ体が動いたのは圭一にも伝わっているはずだけど、圭一はやめなかった。そっと浅く重なる。さっきまで密着していた体が離れて、熱を失い、強く掴まれている肩だけが熱い。柔らかさを確かめるように表面をなぞっていた唇は、やがて少...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(13)

 ふいに圭一が立ち上がる。旭も自然とその動きを目で追う。どこかへ行ってしまうのかと思ったが、すぐ近くに膝をついた圭一を見て、旭は圭一が何をしようとしているのかを理解した。 理解しながら、旭は動かなかった。圭一をこれ以上怒らせたくなくて、その...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(12)

「……お前、柏崎くんが好きなんじゃないの」 何を言っていいか分からず、とりあえずそんなことを口にした。答えはもう分かっているのに。「そう思われてるんだろうなって思ってたけどさ」 圭一が苦笑する。「でももしそうでも、お前、別に気持ち悪いとか思...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(11)

「――圭一」「ん?」「……俺さ」 圭一なら受け止めてくれるかもしれない。そんな甘えも自覚しながら。「あんな軽々しく付き合ったりするんじゃなかったって……今は思ってて」 言いながら、頭の中には自然とあの日見ていた光景が甦ってきた。 彼女ができ...
知らぬ間に失われるとしても

知らぬ間に失われるとしても(10)

 マンションに着くと、圭一が慣れた様子でオートロックを解除した。旭も後に続き、いつものようにエレベーターではなく階段で三階まで上る。階段を上がってすぐ目の前にあるドアが圭一の家だ。旭がここに来るのは数ヶ月振りだった。 玄関を入ってすぐの圭一...
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