2021-04

偽りとためらい

偽りとためらい(57)

「昨日あれから話してて、今度大槻さんとかも一緒に飯行こうってことになったんだけど、藤代も行くだろ?」 次の日、昼食の時に茂からそう言われたので、高志は頷いた。「行く。また日が決まったら教えて」「分かった。佳代ちゃん側にも言っとく。今のところ...
偽りとためらい

偽りとためらい(56)

第19章 三年次・9月  9月後半、後期が始まり、大学生活が再開した。高志の生活もまた日常に戻り、毎日大学に通って授業を受け、空き時間には茂や他の友人達と話し、部活に通うようになった。 アルバイトも、たまに入る日曜日を除けば平日の朝に週に一...
偽りとためらい

偽りとためらい(55)

出し終えると、高志は自身を抜き、荒い息をしながら咲の隣に横たわった。そのまましばらく目を閉じていたが、呼吸が落ち着くに従って、気持ちが急激に冷めていくのが分かった。自分は何をしているんだという自己嫌悪と同時に、咲に対しても軽い嫌悪を覚え、咲...
偽りとためらい

偽りとためらい(54)

「高志くん、帰ろう」 その日もまた、終わり時間が咲と同じだった。やはり断り切れず、高志は無言のまま、咲と一緒に通用口を出た。またカフェにでも連れて行かれるのかと思っていたが、その日はいつもと少し違う道を進んでいることに気付く。「どこに行くん...
偽りとためらい

偽りとためらい(53)

その咲から花火大会に誘われたのは、その約二週間後だった。あの後まだ数回しか一緒に働いてもおらず、高志にとって咲はまだ他人も同然の存在だったが、それより少し前に彼女がいるかどうか聞かれた時、少しだけそういうニュアンスは感じ取っていた。「私、今...
偽りとためらい

偽りとためらい(52)

第18章 三年次・7月  梅雨も明け、本格的に夏がやってきた頃に前期試験が始まった。三回生になると授業にはゼミやその他の演習も増え、筆記試験を行う科目は少なくなる。高志はレポート等の課題に追われながらも、時間が空いてくるとすぐまたアルバイト...
偽りとためらい

偽りとためらい(51)

「それでさ……あの小説で、男が男を好きになってたけど、それからどうするのかなと思ってさ、ちょっと聞いてみたかったんだけど」「そうだったんですね。でもすみません、あれは所詮作り話なので、参考にはならないと思います」 BLはセオリーに則って描か...
偽りとためらい

偽りとためらい(50)

第17章 あかり  あかりの所属する文芸サークルと隣のイベントサークルは、毎年の新歓懇親会を合同で行うのを慣例にしている。今年はあかりも参加予定だった。 当日は文芸サークルから11名、イベントサークルから14名の参加があった。最初は席も自然...
偽りとためらい

偽りとためらい(49)

「舌は入れてないだろ」「そういう問題じゃない」 あと、音たてんな、と言うと、「じゃあ、舌入れなくて、音もたてなかったらしていいってこと?」と茂が悪乗りして聞いてくる。その質問は高志の許容範囲を既に超えていて、高志は答えることができない。して...
偽りとためらい

偽りとためらい(48)

第16章 三年次・6月  薄く目を開けると、茂の頬の輪郭が至近距離に見える。高志の唇を覆う柔らかい感触は常にゆっくりと動いて、時折音を立てる。高志はいつも、その音にぴくりと反応してしまう。自分がいつもじっと受けるだけだから、する側はつまらな...
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