続・偽りとためらい

続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(22)

「藤代」 チェックインを終えた茂に呼ばれ、ぶらぶらとエントランス横の小さな土産物コーナーを見ていた高志は振り向いた。「銀杏の間だって」 部屋の鍵を持った茂に続いて廊下を進む。部屋は二階なので階段を昇り、『銀杏』と書かれた部屋に入った。「飯は...
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続・偽りとためらい(21)

良かった。運転していれば、茂の方を見ないで済む。 そんなことを考えながら、高志は再び運転席に座り、殊更に前を見ていた。 普通に考えれば茂だってさすがに四六時中笑っている訳ではないし、大学の時にはいちいちそんなことを気にしたこともなかった。さ...
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続・偽りとためらい(20)

その後、下道に降りて、海岸沿いの道を南に向かって走った。天気が良かったので、途中で適当に車を停めて、砂浜で少し遊んだりもした。 何も決めていない気ままな旅は、大人になった今では逆に新鮮に思えて何だか楽しい。高志だけでなく、茂も楽しんでいるよ...
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続・偽りとためらい(19)

「あ、いた」 高志が再び展望台に戻ると、高志の姿を探していたらしい茂と目が合った。高志は手にしていたプラカップを差し出す。「ごめん。コーヒー買ってた」「え? あ、サンキュ」展望台のすぐ横には、大学の購買棟に入っていたのと同じ系列のコーヒー店...
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続・偽りとためらい(18)

「なあ、橋が見えてきた」 窓の外を見ていた茂が声を上げる。「あ、そっちから見える?」「うん。見える」 運転しながら高志は答えた。左側はすぐ近くがもう海で、前方に明石大橋が見える。「休みだからもっと混んでるかと思ったけど、そうでもなかったな」...
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続・偽りとためらい(17)

そのまま運転席に乗り込み、ゆっくりと車を外に出して、いったん路肩に停める。「乗って」と茂に声を掛けながら、門扉を閉めるために再び降りようとすると、玄関から妹が出てきた。ちょうど出掛けるところらしく、高志が行く前に門扉を閉めてくれる。それから...
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続・偽りとためらい(16)

第5章 9月-旅行  旅行前日の金曜日に実家に帰ってそのまま泊った高志は、土曜日の朝、最寄り駅まで茂を迎えに行った。 快晴で、午前中からもうかなり暑い。約束の時間の少し前に着き、しばらく待っていると、茂が改札の中から姿を現した。すぐに高志を...
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続・偽りとためらい(15)

翌日の土曜日は、約束どおり希美と会った。今日は高志の部屋に泊まる予定もないため、お昼過ぎに駅で待ち合わせ、そのまま街をぶらつくことにする。どこか行きたいところがあるか聞くと、希美は商業ビルの高層階にある有名な展望台に行ってみたいと言った。こ...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(14)

「――お前とさ」 意識する前に勝手に口から出てしまった高志の言葉に、茂が振り向く。まともに目が合い、高志は少しして目を逸らした。「……旅行でも行けたらいいけど、当分は難しいよな」 口に出して、自分が思ったよりもあの約束を楽しみにしていたのだ...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(13)

「うわ。まじで何もないな」 開口一番、茂が感心したようにそう言う。高志は買ってきた飲み物をローテーブルの上に置き、そのまま座った。床にはこの前購入したクッションが置かれている。金曜日の今日、落ち合った後に適当な店で夕食を済ませてから、茂は約...
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