続・偽りとためらい

続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(42)

 自嘲気味に高志はそう呟く。高志の名刺を手にして嬉しそうに笑っていた茂。高志の部屋に行ってみたいと言った茂。わざわざ手土産を持って実家の母親に挨拶していた茂。今思い出したって、あの態度に裏があるなんて思えなかった。それでも茂は、あんな風に友...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(41)

 コンビニの袋をローテーブルの上に置くと、鞄を床に降ろし、上着のポケットからスマホを取り出して電源を入れる。本当ならこのまま茂のデータを消してしまうつもりだった。高志はしばらくスマホが立ち上がるのを見つめていたが、結局、そのままスマホをベッ...
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続・偽りとためらい(40)

 店を出てから二時間弱、自宅の最寄り駅が見えてくるまで、高志は歩き続けた。冬の夜にもかかわらず、体は熱を発してシャツの中で汗が流れていた。 ひたすら歩くことで、ほんの少し気分が好転した。忘れてしまえた訳ではなく、希望を見出した訳でもなく、た...
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続・偽りとためらい(39)

第9章 12月-決意 しんとする寒さの中、高志は来た道を戻った。無意識のうちに顔が歪む。 アルコールで火照った頬に、冬の夜風が冷たかった。高志はただ少しでも遠くに行くことだけを考えて、足早に歩き続けた。駅前通りに出ると、駅には向かわずに反対...
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続・偽りとためらい(38)

 大学院の学費もその間の生活費も、長い目で見れば先行投資だろう。茂なら将来的に独立しても多分成功するだろうし、そうなればその分は充分回収できる。だから、理屈では時間的なメリットの方を選ぶ方がいいと思う。しかし、現実的な問題も無視する訳にはい...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(37)

 運ばれてきた料理を取り分け、食べる。咀嚼している間にしばし流れた沈黙の後、茂が口を開いた。「……大学院に行けばどうかって言われててさ」「大学院?」「うん」 料理に視線を落としたまま、茂が話し出す。「大学院に行って修士論文を書いたら、試験の...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(36)

「……何?」 ジョッキを傾けてごくりと一口飲むと、面白そうな顔をした茂と目が合ったので、高志は思わず尋ねた。「いや、何かサラリーマンみたいだなと思ってさ。スーツ着て仕事終わりにビールって」「みたいじゃなくてそうだろ」「でも、頭ん中ってまだ自...
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続・偽りとためらい(35)

 待ち合わせ場所は前回と同じだった。早めに仕事を終わらせて会社を出た高志は、少し早く到着し、ひとまず壁際にスペースを見付けて、壁にもたれた。 週末の繁華街は混雑していて、周りには高志の他にも誰かを待っているらしき男女がたくさんいた。待ち人が...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(34)

第8章 12月 翌週の月曜日、外で夕食を済ませた高志は、帰宅して着替えると再び外出した。徒歩数分の距離にあるジムへと向かう。近いため、ジムの更衣室やシャワールームは使用せず、いつも家からトレーニング用のウェアを着て行き、終わったらそのまま帰...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(33)

 こうやって週末に希美と一緒に過ごす時間を、高志は結構気に入っていた。普段一人で部屋で過ごすのもそれなりに快適だったし、特に淋しいとも思わなかったが、希美が来ると何でもない時間が楽しかった。 そうやって過ごしながら、高志は、あの後に茂と連絡...
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