続・偽りとためらい

続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(32)

 高志の部屋に着く頃には、希美はいつもの様子に戻っていた。「高志くん、先に着替えていいよ」 希美はそう言いながら鞄を置いてジャケットを脱ぐと、早速キッチンのシンク前に立つ。慣れた手つきで包丁を取り出し、まな板を水で濡らす。 高志はクローゼッ...
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続・偽りとためらい(31)

第7章 11月 繋いだ手が温かい、と思ったちょうどその時、希美が「ちょっと寒いね」と言った。「あっという間に冬だね」 金曜日の仕事終わり、会社近くで落ち合って高志の部屋に向かう道中、最寄り駅を降りたところで、いつものように希美が手を繋いでき...
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続・偽りとためらい(30)

 それからしばらく、週末はまた毎週のように希美と一緒に過ごした。金曜日の仕事帰りに落ち合い、大抵は土曜日の夜まで高志の部屋で二人で過ごす。外食する回数が減り、部屋で食べることが増えた。 あの旅行以来、茂とは連絡を取っていなかった。 しばらく...
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続・偽りとためらい(29)

「これ、お土産」「わ、ありがとう」 次の日、仕事終わりに落ち合った希美に、高志は買ってきた讃岐うどんを手渡した。何度か行ったことのある会社近くの洋食レストランで、一緒に夕食を取って帰ることにする。「……それさ、うどんなんだけど」「あ、うん、...
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続・偽りとためらい(28)

 ふと目を覚ますと、停止した車の中だった。 知らない間に眠ってしまっていたらしい。外はもう真っ暗で、隣の運転席に茂の姿はなかった。空調を維持するため、エンジンはかかったままになっている。 エンジンを切ってから外に出ると、そこはサービスエリア...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(27)

 次の日の朝食の場で、高志の顔色を見た茂が、体調を尋ねてきた。高志は「あんまり眠れなかった」と答えた。「夜中に目が覚めて、そしたらそっから何でか眠れなくなってさ」「ああ。それで朝風呂も行ったんだ?」 本当は一睡もできなかった。眠れないまま、...
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続・偽りとためらい(26)

 暗闇の中で天井をひたすら見上げているのに飽きた高志は、少しだけ寝返りをうって茂の方を見た。茂はもう寝ているようだった。顔は見えない。かすかに肩の辺りが上下しているのが薄明りの中で見える。 消灯してから、多分もう一時間以上経っただろう。眠気...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(25)

第6章 9月-自覚「――お前が、いつも俺のこと変に持ち上げて人に話すからさ」 茂に不信感を与えないように、それだけを考えて、高志は口先だけで言葉を繋いだ。「いざ見せても、がっかりさせるだけだろ」「そんなことないよ。ほんとにイケメンじゃん」 ...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(24)

「あ、そうだ」 唐突に茂が声を上げたので、高志は飲もうとしていたチューハイの缶を持つ手を止めた。「ん?」「な、写真撮ろう、二人で」 茂が楽しげにそう言うと、スマホを手に取って高志の近くに寄ってくる。「え、ああ」 座ったままの高志のすぐ横に並...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(23)

「あ、布団敷いてくれてる」 大浴場を出た後、大広間での夕食を終えて部屋に戻ると、中央にあった座卓が隅に寄せられ、布団が二組敷かれていた。茂がぼすんと布団の上に俯せに寝転がる。「駄目、腹一杯。疲れた」「そのまま寝るなよ」 高志が座卓のそばに腰...
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