続・偽りとためらい(21)

 良かった。運転していれば、茂の方を見ないで済む。
 そんなことを考えながら、高志は再び運転席に座り、殊更に前を見ていた。
 普通に考えれば茂だってさすがに四六時中笑っている訳ではないし、大学の時にはいちいちそんなことを気にしたこともなかった。さっきだって、茂はおそらく何の意図もなくただ素の表情に戻っただけだろう。それなのに、高志は自分でも驚くほど動揺した。結局、自分は再会後の茂の友情をまだ信頼しきれていないのだ、と自覚する。
 遅い昼食を食べ終わった後、道の駅で少しだけショップを覗いてからまた車に乗り込み、今度は鳴門大橋を渡った。渡った先でまた車を降りて、渦潮を見下ろすことのできる渦の道を歩く。
「あ、まじで渦巻いてる」
 高志達が行った時間帯は、ちょうど渦潮がはっきりと見える頃らしかった。左右のフェンス越しにも鳴門海峡が見下ろせたし、回廊の途中には床がガラスになっているところもあった。
「何か、思ったより激しいな」
「なあ。怖え」
「怖い?」
「だって、あれ巻き込まれたら絶対死ぬし」
「ああ。まあ近付くことないけどな」
「見てるだけで怖いだろ」
「見てるだけなら怖くない」
 高志の言葉に、茂が面白そうに笑う。そのまま、しばらくぶらぶらと回廊内を歩いた。海の上を吹く強い風が通って気持ちが良かった。やがて茂が「もう行く?」と言い、二人は回廊を後にした。
「どうする? 他にどっか行きたいとこあるか?」
 車に戻って、シートベルトを締めながら茂に聞く。
「もうチェックインできるけどな。ちょっと早いけど、旅館に向かう?」
「そうだな。飯の前にゆっくり風呂入ってもいいし」
「あ、いいな。そうしようか」
 車を発進させ、セットしてあったナビの表示するルートのとおりに走り始めた。予定では一時間強かかる見込みになっている。しばらくは海沿いの道を走っていたが、やがて海は見えなくなった。
「うどんは明日だなー」
 茂が独り言のように呟く。
「悪い。俺、何にも調べてきてないんだけど、行きたい店とかある?」
「ああ、一応軽く調べてみたんだけどさ、どこって選んではないんだよね。高松辺りで適当に入ればいいかなって感じ」
「了解」
「お前は行きたいとことかないのか?」
「とりあえず、どっかで土産は買いたい。父親にも何か買わないと」
「あ、俺も半分出す。何がいいとか考えてる?」
「まあ、酒が無難かなと思ってる」
「あ、飲む人なんだ?」
 茂が意外そうに言うので、高志も逆に不思議に思い、聞き返す。
「え、うん。何で?」
「だって、お前あんまり酒が好きな感じでもないだろ」
「ああ。まあ、一緒に飲むとかはしたことないかな」
「お前はチューハイが好きだもんなー」
「好きっていうか、飲みやすいってだけ」
「ていうかさ、そう言えばどうする? 旅館、ビールとか買って入る?」
 茂が思い出したように聞いてくる。
「あ、その方がいいかもな。近くにありそうか?」
「ちょっと待って」
 スマホを取り出し、茂がしばらく調べている。
「――多分、一番近いコンビニでも5キロくらい離れてる。先に買っとこっか」
「そうだな。後から出るの面倒だし」
 徐々に市街地から遠ざかり、田舎の一本道を走る。途中でコンビニに寄って適当に飲み物などを買い、宿に着いたのはもう日も傾きかけている頃だった。

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