続・偽りとためらい(19)

「あ、いた」
 高志が再び展望台に戻ると、高志の姿を探していたらしい茂と目が合った。高志は手にしていたプラカップを差し出す。
「ごめん。コーヒー買ってた」
「え? あ、サンキュ」
展望台のすぐ横には、大学の購買棟に入っていたのと同じ系列のコーヒー店があった。高志が差し出したコーヒーは、ゼミ終わりにいつも二人でそのカフェに行っていた時によく茂が頼んでいたものだった。
「どこ行ったかと思ってた」
「悪い。買ってすぐ戻ってくるつもりだったんだけど、混んでて思ったより時間かかった」
「いや、全然いいけどさ。後で払うな」
 受け取ってそう言う茂に「いいよ」と返して、高志は自分のコーヒーを一口飲んだ。茂もストローに口をつける。
「お前、結構ずっと見てたな。気に入った?」
「ああ、何かきれいだなと思って」
「夜になるとライトアップされてる。そこの観覧車も」
「へえー。帰りなら見られるかな」
「明日もう一回見に来るか?」
「うん。時間合えば見たい」
 頷く茂に、高志は「今はもう見終わった?」と聞いた。
「うん。もう充分見た」
「んじゃそろそろ行くか」
「うん」
 踵を返した高志の後を、茂もごく自然についてくる。高志は歩調を少し落として、茂の横に並んだ。
「この後、このまま高速で行ってもいいんだけどさ、下道に降りたら海沿いを走れるけど、どうする?」
「そうなんだ。じゃあ下で行く? どうせ時間あるしな」
「昼飯は? 四国に入ってからうどん食う?」
「それなんだけどさ。鳴門大橋の手前の道の駅に、あわじ島バーガーっていうのがあるみたいなんだけど、今日か明日かどっちかで食べてみたい」
「へえ。じゃあそこに着く頃に腹が減ってたら、四国に入る前に食うか」
 車に乗り込むと、室内の空気は熱されてむっとしていた。高志はすぐにエンジンをかけてエアコンを強くし、ゆっくりと車を発進させた。

PAGE TOP