続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(9) 「そう言えば、藤代って矢野さんと仲良かったっけ?」 運ばれてきた前菜を口に運びながら、茂が聞いてくる。「俺の番号、矢野さんから聞いたんだろ」「ああ。いや、何か……」 少しややこしい経緯をどう説明しようかと考えているうちに、むしろ元凶は茂だっ... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(8) 第4章 8月-再会 茂が指定した場所に少し早めに行くと、茂は既にそこに立っていた。スラックスにネクタイというビジネススタイルで、スマホを触りながら壁にもたれて高志を待っている。少し離れた位置から茂を見付けた時、高志は一瞬立ち止まった。歩調... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(7) 週の明けた月曜日、高志は仕事終わりに希美を呼び出した。どこかでお茶でもと思っていたが、結局食事に行くことにする。ちょうど金曜日の埋め合わせにもなった。 二週連続で金曜日の夜に会えないことを希美に伝える時に、高志はかいつまんで事情を話した。大... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(6) 「細谷。お前、今どこにいんの」『今? 家にいるけど』「どこの?」 高志の質問の意味が分かったらしい茂が、少し笑った気配と共に答える。『O市内だよ』 それは、高志がいるのと同じ市だった。『お前は?』「……俺も」『はは。そうなんだ』 何度も聞い... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(5) 第3章 8月-電話 決行の日は、夏休み明け最初の金曜日にした。 その日、高志は喉をせり上がってくる緊張感を抑え、努めて毎日のルーティンのとおりに動いた。 希美には、今日は一緒に食事には行けないことをあらかじめ伝えていた。終業後、一人で会社... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(4) 高志の住む部屋は、M駅から徒歩三分ほどの距離にある築浅の単身者向けマンションの八階だった。配属先が本社だったため、実家からも通えないことはなかったが、会社から補助が出ることもあって、高志は就職と同時に家を出て独り暮らしを始めていた。 途中の... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(3) 第2章 7月 「社会人になると、夏休みってびっくりするほど短いよねー」 7月上旬の金曜日。レストランを出た後、日が落ちてもまだ蒸し暑い外気の中を歩きながら、希美がそう言って大袈裟に首を振った。「大学の頃は二か月もあったしな」「働き始めると、... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(2) 飲み会が終了し、暖簾をくぐって高志が店の外に出ると、希美と槙が既にそこにいた。高志に気付き、槙が声を掛けてくる。「お疲れ様。藤代くん、二次会は?」「いや、今日はやめとくよ」「そっか」 高志に続いて三浦も出てくる。「三浦くん、二次会行く?」と... 続・偽りとためらい
続・偽りとためらい 続・偽りとためらい(1) 第1章 6月 食事を終えた後、レストランを後にして移動した高層階のそのバーからは、窓の外に広がる一面の夜景が見えた。窓際に席を取り、向かい合ってドリンクを飲む希美の顔には、アルコールのせいではない赤みがさしている。 食事の時と違い、二人と... 続・偽りとためらい
偽りとためらい 偽りとためらい(98) つらつらと考えていると、あかりから声を掛けられる。「藤代くん」「ん?」「……さっきの話、半年後くらいでもいいですか」「どの話?」「連絡先の話です」 あかりが顔を上げる。普段の表情に戻っている。今からのことを考えて動揺しているのかとばかり思っ... 偽りとためらい