「そう言えば、藤代って矢野さんと仲良かったっけ?」
運ばれてきた前菜を口に運びながら、茂が聞いてくる。
「俺の番号、矢野さんから聞いたんだろ」
「ああ。いや、何か……」
少しややこしい経緯をどう説明しようかと考えているうちに、むしろ元凶は茂だったことを思い出す。
「ていうか、もともとはお前のせいだろ」
「え、俺?」
「お前が矢野さんに、変なこと言ったからだよ」
「変なことって?」
「だから……」
少しだけ声を潜めて、あかりからの依頼の話をすると、茂は笑い出した。
「俺、そんなこと言ったかなあ。ごめん、よく覚えてない」
「言ったんだよ」
「でも、最終的には引き受けたんだ?」
「まあ。交換条件だったから」
「何の?」
「……お前の連絡先」
茂は少しだけ口をつぐんだが、「へえ。そっか」と言って、また皿に視線を落とした。
「で? 見たの? 矢野さんのお尻」
「は?」
「やったんだろ。見たんじゃないの?」
「最後まではやってない。見えないようにやったし」
「どうやって?」
「だから、向かい合って……こう、手を回して」
あの日、恥ずかしがるあかりに対し、高志は最大限に気を遣いながら依頼された内容を遂行しようとした。あかりの臀部が目に入らないように、ベッドの上で座った自分に正面から寄りかかってもらい、腕だけを回して手探りでそこを解そうとした。しかし結局、指を二本に増やそうとした辺りで、あかりがあっさりと音を上げた。
「でも、指は入れたんだな」
「だからお前のせいだって」
「はは。お前、何気にすげえよな」
茂が感心したように言う。その行為が自身の連絡先と引換えだったということをどう思っているのかは、高志の目にはよく分からなかった。
「まあ矢野さんも発想が飛んでるっていうか。あの人、ちょっと変わってて面白いよな」
高志もその意見には完全に同意だったので、深く頷く。
「だな。でもまあ、お前がいい人だって言ってたのも分かったけど」
「興奮した?」
「え?」
「矢野さんに指突っ込んだ時、ムラっときた?」
表情を変えないまま、茂が唐突にそう聞いてきた。その質問は少しだけ冗談のニュアンスを超えているように感じられて、一瞬、高志は茂の表情を窺った。
「……何言ってるんだよ」
高志の声に、茂が気付いたように顔を上げ、首を振った。
「ごめん。変なこと聞いた」
それからしばらく、黙々と二人で料理を口に運んだ。