続・偽りとためらい(10)

 テーブルに置いていた茂のスマホが震える。手に取った茂はそのままディスプレイを確認すると、少し笑って、高志に掲げてみせた。
「お前によろしくって」
「え?」
「正確には『イケメンくんによろしく』ってさ。今日お前に会うって話したから」
「誰に?」
「諒子さん。今付き合ってる人」
 さらっとそう言った茂に、高志は一瞬だけ反応が遅れた。何か言葉にできないものを感じながら、努めて何気ないふりを装った。
「へえ。年上?」
「そう。七歳上かな? 先月誕生日でさ、ついに三十歳になったって何かすごいへこんでた」
「結構上だな。仕事関係の人?」
「うん。上司。ていうか雇い主?」
 茂の言葉に、高志はまた少しだけ意表を突かれる。
「……エロいなお前」
「ははっ。この場合、エロいのは俺じゃなくて諒子さんの方だよね」
 茂が笑い、スマホを再びテーブルに置く。
「雇い主ってことは、その人が所長ってこと?」
「ていうか、社員税理士の一人かな。うち税理士法人だからさ。社員って言っても、普通の会社でいう役員みたいな感じ。もう一人の先生が代表社員で、諒子さんと二人で法人設立したみたい」
「へえ……何かすごいな」
「藤代は? 彼女。いるんだろ」
 茂がこちらに話を振ってくる。
「ああ。今、会社の同期と付き合ってる」
「じゃあ同い年か。どんな人?」
「何か、元気で明るい」
「へえー」
「……エロくはない」
「ははっ」
「割と背が高い」
「へえ。お前も高いから、お似合いだな」
「まあ、多分、最初はそれで気に入られたっぽい」
「そうなんだ。俺と同じくらい?」
「そうだな、大体それくらいかな」
「170ちょっとか」
 茂はそう言うと、「でもいいよな、同期とか」と言って笑った。
「俺、同期って一人もいないからさ。まあこういう業種だと仕方ないけど」
「事務所って何人くらいいるんだ?」
「先生とかパートの人とか全員入れて、九人かな。有資格者が三人、補助が俺含めて六人」
「仲いい?」
「うん、悪くないよ。割と働きやすい方だと思う」
「なら良かったな」
 何となく職場の雰囲気を想像する。おそらく茂自身がその空気を明るくしている部分も大きいのだろう、と高志は思った。

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