2021-04

続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(29)

「これ、お土産」「わ、ありがとう」 次の日、仕事終わりに落ち合った希美に、高志は買ってきた讃岐うどんを手渡した。何度か行ったことのある会社近くの洋食レストランで、一緒に夕食を取って帰ることにする。「……それさ、うどんなんだけど」「あ、うん、...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(28)

 ふと目を覚ますと、停止した車の中だった。 知らない間に眠ってしまっていたらしい。外はもう真っ暗で、隣の運転席に茂の姿はなかった。空調を維持するため、エンジンはかかったままになっている。 エンジンを切ってから外に出ると、そこはサービスエリア...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(27)

 次の日の朝食の場で、高志の顔色を見た茂が、体調を尋ねてきた。高志は「あんまり眠れなかった」と答えた。「夜中に目が覚めて、そしたらそっから何でか眠れなくなってさ」「ああ。それで朝風呂も行ったんだ?」 本当は一睡もできなかった。眠れないまま、...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(26)

 暗闇の中で天井をひたすら見上げているのに飽きた高志は、少しだけ寝返りをうって茂の方を見た。茂はもう寝ているようだった。顔は見えない。かすかに肩の辺りが上下しているのが薄明りの中で見える。 消灯してから、多分もう一時間以上経っただろう。眠気...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(25)

第6章 9月-自覚「――お前が、いつも俺のこと変に持ち上げて人に話すからさ」 茂に不信感を与えないように、それだけを考えて、高志は口先だけで言葉を繋いだ。「いざ見せても、がっかりさせるだけだろ」「そんなことないよ。ほんとにイケメンじゃん」 ...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(24)

「あ、そうだ」 唐突に茂が声を上げたので、高志は飲もうとしていたチューハイの缶を持つ手を止めた。「ん?」「な、写真撮ろう、二人で」 茂が楽しげにそう言うと、スマホを手に取って高志の近くに寄ってくる。「え、ああ」 座ったままの高志のすぐ横に並...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(23)

「あ、布団敷いてくれてる」 大浴場を出た後、大広間での夕食を終えて部屋に戻ると、中央にあった座卓が隅に寄せられ、布団が二組敷かれていた。茂がぼすんと布団の上に俯せに寝転がる。「駄目、腹一杯。疲れた」「そのまま寝るなよ」 高志が座卓のそばに腰...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(22)

「藤代」 チェックインを終えた茂に呼ばれ、ぶらぶらとエントランス横の小さな土産物コーナーを見ていた高志は振り向いた。「銀杏の間だって」 部屋の鍵を持った茂に続いて廊下を進む。部屋は二階なので階段を昇り、『銀杏』と書かれた部屋に入った。「飯は...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(21)

 良かった。運転していれば、茂の方を見ないで済む。 そんなことを考えながら、高志は再び運転席に座り、殊更に前を見ていた。 普通に考えれば茂だってさすがに四六時中笑っている訳ではないし、大学の時にはいちいちそんなことを気にしたこともなかった。...
続・偽りとためらい

続・偽りとためらい(20)

 その後、下道に降りて、海岸沿いの道を南に向かって走った。天気が良かったので、途中で適当に車を停めて、砂浜で少し遊んだりもした。 何も決めていない気ままな旅は、大人になった今では逆に新鮮に思えて何だか楽しい。高志だけでなく、茂も楽しんでいる...
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