知らぬ間に失われるとしても(91)

 圭一は再び体を起こして、自分は動こうとしないまま、旭のものを扱き始めた。
「我慢してんの?」
「え?」
「動いていいよ」
 挿入する気持ち良さは旭も知っている。考えてみたら、圭一は今までずっと、そこを我慢して旭の体を気遣ってくれていたのだ。毎回、旭の様子を見て圭一の方から抜いていた。自分自身の快楽を優先させることなんて一度もせずに。
 そんな圭一が、何かを無理強いしてるかもしれないなんて心配する必要は全くないのに。
「自分でやるから、動いていいよ」
 圭一の手の上から、旭は自分のそれを握った。
 それを見た圭一は手を離すと、ゆっくりと腰を動かし、自身を抜き始めた。
 それからまたゆっくりと挿入する。
 ゆっくりと、出して、入れる。何度も繰り返す。
「……」
 旭の目を見つめていた圭一の視線はいつの間にか逸れ、絶えず下半身を小刻みに動かしながら、今は旭の喉元あたりを凝視していた。でもきっと何も目には入っていない。きっとその意識は生まれ続ける快感にだけ向いている。
 荒い息を繰り返し、我慢しきれないようにその腰の動きは徐々に速度が増していった。
 旭自身、その初めての感覚に、何度も何度も突き上げられるその感覚に翻弄されていった。圭一に揺さぶられている自分を認識する。男に組み敷かれて、男に揺さぶられている自分。自分も男なのに、どうして当たり前みたいにこんなに気持ちいいんだろう。中をいっぱいにされて何度も擦られるその刺激はいつもの生理的欲求に直結する。裏側から押されて衝動が高まり、耐えきれずに旭は自分の手で前を扱いた。
「……っ」
 旭の姿を見て、圭一は煽られたように抽挿を更に速めた。強まった刺激に眉を寄せて圭一を見上げると、こちらを見ていた圭一と目が合う。旭は何も考えられないままに首を振り、それから声にならないまま、いく、と口を動かした。
 やがて、圭一の視線を感じながら旭は達した。二度三度と精液を放ち、出し切った後、脱力してベッドに頭を落とす。目を閉じて自分の鼓動の速さを感じながら胸を上下させていると、唇に温かいものが触れた。
 圭一がいつの間にか動きを止めてくれていたことに気付き、旭は目を閉じたままそっと圭一の背中に手を置いた。

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