偽りとためらい(31)

第10章 二年次・9月

 ターミナル駅の改札前で行き交う人混みを避けながら壁にもたれて待っていると、時間より少し遅れて茂がこちらに来るのが見えた。
「藤代、ごめん」
「お疲れ」
 久し振りに会う茂は、特に久し振りという印象もなく、いつもと同じだった。並んで歩き出す。
「今日こっちに戻ってきたのか?」
「いや、昨日」
「今回は早かったな」
「うん、ちょっと約束があってさ」
「ああ、そっか」
「で、何食う?」
「何も決めてないけど、とりあえず適当に店見て回るか」
「何系がいい?」
「肉かな」
 茂はこの辺りには詳しくないらしいので、高志は近くのレストラン街の方に案内した。様々なジャンルのお店が揃っているし、柔道部の仲間からここのどこかに安くて美味い焼肉食べ放題の店があるということも聞いていた。茂がよければそこに行ってもいい。
「お前は何食いたい?」
「まあ何でもいいかなー」
 左右に並ぶ様々なレストランのショーケースを眺めながら歩いていると、それらしき焼肉店が見えた。
「ああ、ここか」
「ん? 焼肉にする?」
「いや、ここ柔道部のやつらが美味いって話してて」
「へえ。食べ放題? いいよここで」
 茂の言葉で早々に決まり、二人は中に入った。入った途端に空調の冷気に包まれる。平日の早い時間なので、まだそれほど混んでいない。店員に案内され、真ん中にロースターが備え付けられたテーブルに向かい合わせに座った。
「藤代は今日も部活だったんだろ。直接来たのか?」
「いや、一回帰った。……あ、そうだ」
 鞄の中から、袋を取り出して茂に渡す。
「これ、土産」
「え、まじで? サンキュ」
「前に俺ももらったから」
「どっか行ったの? 旅行?」
「いや、お盆に田舎に帰った時の」
 店員が水とおしぼりを持ってきてくれたので、そのまま二時間制の食べ放題と飲み放題を注文し、適当に盛り合わせ数種類とビールを頼んだ。水を一口飲み、おしぼりで手を拭くと、その冷たさが気持ち良かった。

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