偽りとためらい(46)

 例年行われる新入生向けの入部勧誘期間も終わった頃、今年度最初のぷよぷよ会が招集された。最近ではただの飲み会となっている。集まるのは例の合コン参加以来だったため、もう去年の話になるのに、合コンのことを聞かれた。
「全然駄目だった。あんまり話せなくて居心地が悪かった」
 高志はそう答えた。
「まあ、藤代くんはイケメンだけど、ちょっと怖くて女子は話し掛けにくいかもねー」
 山田が歯に衣着せず指摘してくる。
「水谷くんは当然駄目だったし」
「当然とか言うな」
「ああもうここ侘しいやつらしかいないじゃん」
「虚しい男飲み……」
「細谷以外な」
 例によって独り身アピールするメンバーに、高志がそう言うと、
「いやいや、細谷くんも再びオタクに陥落だよなー」
と伊藤が笑いながら言ったので、高志は驚いた。
「そうなのか?」
「あー、まあ、何かはっきりしないんだけど」
 茂が言う。
「細谷くんが冷たくするからさあ。かわいそー」
「冷たい? 細谷が?」
 上手く飲み込めず、高志は茂に直接尋ねた。
「振ったのか?」
「いや、何か、自然消滅的な感じ」
「デートすっぽかしたんだよな」
「途中で帰ったんじゃなかった?」
「しかもクリスマス前の大事な時期に!」
「そりゃショックだよなー彼女も」
 当然のように詳細を語るメンバーの話を聞きながら、自分だけ何も知らないことに自然と生じる疎外感を、高志は努めて無視した。別れたことすら聞いていなかった。ただ、もともと茂は高志には今の彼女の話はしないようにしていたみたいだから、その流れで言わなかったのかもしれない。あるいは、高志が遥香と別れて日が浅かったことに気を遣ったのだろうか。
「まあ細谷くんはさ、長期休暇もネックだよな。実家遠いし」
「その間に冷める確率高まるよね」
「でも、お前にしては珍しいな」
 高志は、女子に冷たい茂というのが上手く想像できなかった。
「よっぽどむかついたのか?」
「いや全然、そんなんじゃないよ。ただその日ちょうど用事があったの忘れてて、一応ちゃんと説明したんだけどさ」
「まあ、春休み中に一回も連絡来なかったんなら、もう駄目だろうねー」
「いいよ、もう仕方ないし」
「でも同じサークルだったら気まずくないか」
「いや、同じサークルじゃなくて、隣のサークルなんだよ。サークル棟で部室が隣なの」
「何でか昔からメンバーがよく行き来してんだよね」
「へえ」
「だからぎりセーフ?」
「いやビミョーでしょ。最近いないじゃん麻由ちゃん」
「だよなー俺も思ってた。来にくいよなそりゃ」
 また内輪話に戻ったみんなの話を聞きながら、高志はふとあることを思い出した。


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