圭一がどんなに好きだと言ってくれても、結局、旭とは付き合えないのかもしれない。
夏休みの間だって、二人でいた時間はあんなに穏やかで自然だったのに、やっぱり最後には忘れられてしまったのだから。
何度やり直したって、永遠にうまくいかないのかもしれない。
「……おい」
戸惑ったような圭一の声が聞こえる。声を殺しても、肩が小刻みに震えてしまう。
「旭……そうじゃなくて」
「そんなに、俺の何かが嫌? どこが嫌?」
「嫌な訳ないだろ。無理すんなって言ってんだよ」
「俺のこと好きだって言ったのに」
「だから、好きだよ。ずっと言ってるだろ、俺は」
「だったら何で忘れるんだよ……!」
鼻の奥が熱くなって、呼吸が嗚咽へと変わる。言わないと決めていたことを、衝動のままに口にしてしまう。
「何で俺だけ? 他のことは全部覚えてるくせに、何で俺のことだけ忘れちゃうんだよ」
「……え? 忘れる?」
明日になれば、また圭一は旭のことを忘れてしまうんだろう。
それが、圭一にとって葛藤を解決する方法なんだろう。
旭にはどうすることもできない。
圭一ですら、きっとどうすることもできない。
「旭、なあ」
肩に圭一の手が触れ、振り向かせようとする。抗うように体を固くすると、すぐに離れた。
「忘れるって何? 俺、何か忘れてる?」
答えないままでいると、今度は手で顔を覆う旭の手首を圭一が引く。旭は布団にうずめて顔を隠した。
「……なあ、旭、頼むからこっち向いて。教えて」
しゃくり上げて泣き続ける旭に、圭一も閉口しているようだった。諦めたように手首が離されたので、両腕で目を覆う。
やがて衣擦れの音がした後、何かの布がばさっと掛けられた。頭から足先までその布に覆われる。外界から遮断されたその膜の中で、旭はいっそう体を丸くした。
しばらくして、静かにドアが開閉する音がする。
――ああ、あの時と同じだ。
やっぱりそうなんじゃないか。