ぬくもり(1)

 数週間ぶりに肌を合わせた後、シャワーを終えて高志が部屋に戻ると、先に浴び終えていた茂がベッドの上で布団にくるまっていた。
 何故か高志の枕に頭を載せ、いつも高志の寝る壁側に寝ている。首だけを動かして、高志を見上げてくる。
「お前、今日はそっちで寝るの?」
 高志がそう聞くと、茂は当たり前のように「うん」と頷く。
「ふうん」
 まあいいけど、と独り言のように呟いて、高志はベッドの上に腰を下ろした。
――何でさも当然のような顔で頷いてるんだ。
 一拍遅れてさっきの茂の様子が面白くなってきて、高志は内心で少し笑った。
 こんな風に、たまに茂はよく分からないことをする。そして高志は茂のそういう振る舞いが結構好きだった。大抵の場合は何も言わずに受け入れたし、今日も茂のしたいようにさせた。いつもと違う側で布団に体を滑り込ませて体を横たえようとしたところで、茂と目が合う。一瞬だけ間をおいた後、高志は片肘をついて茂の上に屈み込み、軽く唇を合わせた。
「――俺、お前とキスするの好き」
 唇を離した後、何気なく出た茂のその言葉に、高志は思わず苦笑する。
「だろうな」
 茂の隣に横たわりながらそう言うと、今度は茂が怪訝そうに「え?」と聞き返してくる。
「何それ。俺様?」
「何言ってんだ。大学の頃ずっと何回もしてきたくせに」
「ああ、そっか」
 頭をクッションに載せ、視線の高さの合った茂にそう言い返すと、茂が納得したように笑う。
「でもお前もさ、何でか知らないけど全然嫌だって言わなかったしさ」
 そしてふと気付いたように、「……キスは」と小さく付け足した。
 高志が何も答えずにいると、視線を外した茂はしばらく天井を見上げた後、やがて寝返りをうつように高志に背を向けた。布団を引っ張り上げて、埋もれるように頬まで被る。
「――細谷」
「ん?」
「もう寝る?」
「んー」
 曖昧に答える茂の髪に後ろから触れる。茂は振り向かない。茂の頭をよぎったものが何なのか、何となく分かる気がした。高志は布団の中で覆い被さるように茂の体に腕を回した。気付いて振り返ろうとした茂の唇を後ろから塞ぐ。
「――」
 一度唇を合わせ、それから離れようとした茂の顔を追い、更に深くキスする。茂は意外そうに少しだけ動きを止めたが、拒否することもなく高志の舌を受け止めた。

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