第10章 12月-二人
ふと気付けば、22時を過ぎていた。
「お前、泊まるなら、先に風呂入れよ。体冷えてるだろ」
外で座り込んでいた茂の手を取った時、氷のように冷えていたのを思い出し、高志はエアコンをつけた。それから湯船にお湯を溜めるためにバスルームに行って給湯器のスイッチを押す。再び部屋に戻り、クローゼットからタオルや着替えを出して、茂に渡した。
「腹減ったから、お前が風呂入ってる間に何か買ってくる。お前も減ってるんじゃないか」
「あー、うん、少し」
「ほとんど食わないままだったしな」
財布を鞄から取り出し、上着のポケットに入れる。
「ついでにお前の歯ブラシとかパンツとか適当に買ってくるから」
「まじで。サンキュ」
「沸いたら音が鳴るから、勝手に入っといて」
そう言うと、茂を部屋に残して、高志は再び外に出た。駅までの道のりを戻り、帰る前に立ち寄ったコンビニにもう一度入る。
さっき来た時とは比べものにならないくらい心が軽かった。暗い気分で歩き続けて帰ってきたのが嘘のようだ。茂とはもう二度と会わないとまで思っていたのに。
時間が遅いせいで陳列棚には空きが目立っていたが、ひとまず適当な食べ物と茂に必要なものを購入した。
帰宅すると、入浴中の茂に声を掛け、買った下着を脱衣所に置いておく。自分も部屋着に着替えてから、高志はローテーブルのそばの定位置に座った。そして、ふと希美のことを思い出した。茂が泊まるなら明日は多分会えないから、早めに連絡しておいた方がいいか、と考える。おそらく希美は怒らないだろう。
そして想像もしないのだろう、その裏で高志が自分を裏切っているなんて。
高志は自分の言動の意味を正しく理解していた。罪悪感はもちろんあった。それでもやめようとは思わなかった。スマホを手に取り、希美にラインでメッセージを送っておいた。
風呂から出た茂と一緒に夜食を取って空腹を満たした後、今度は高志が風呂に入った。せっかくなので、ゆっくりと湯船に浸かる。
上がってから部屋に戻ると、茂はテキストらしき小冊子を開いていた。
「勉強?」
「うん。理論の暗記」
高志がベッドに腰かけると、ふと顔を上げて聞いてくる。
「なあ。お前ん家って客用の布団とかあるの」
「いや、ない」
「だよな」
高志の返答に茂が頷く。テレビもないのに、と思っているのが伝わってくる。特にフォローしないまま、高志は黙ってタオルで髪を拭いた。茂もそれ以上聞いてこない。
「お前、もう寝る?」
「いや、もう少し起きてる。気にせずに好きなだけ勉強しろよ」
そう言うと、高志はベッドに寝転がり、充電しておいたスマホを手に取った。希美から、明日の予定について了解した旨の返信が来ている。それを確認すると、高志は読みかけだった本を開いた。