ふと、高志は唇を離した。
高志の下半身に茂の腰の辺りが触れているのに気付く。その意図的な接触は、そこに顕れた高志の興奮を確認するように小さく動いた。そうして見上げてきた茂は、高志と目が合うと、視線を逸らして顔を伏せた。
それからしばらく躊躇した後、意を決したように茂が口を開く。
「……入れる?」
少しだけ頭が冷え、高志は体を離した。一つ溜息をついてから、ゆっくりと答える。
「……入れない」
てっきり安堵を見せるものと思った茂は、硬い表情で俯いたまま、更に問うてくる。
「何で」
「……塗るものがない」
その言葉に、ようやく茂が少しだけ表情を緩めて顔を上げる。
「あったら、入れる?」
頼りないようなその声からは、高志の気持ちをまだ充分に信じ切れていない茂の不安が伝わってきた。高志はどう答えるべきか少しだけ思案した。本音を言えば、茂がしたいならできる、というのが一番正確な表現だった。お前はどうなんだ、と思わず聞きたくなるが、しかし、茂が欲しいのは高志の自発的な答えに違いなかった。
「俺は……できると思う」
高志がそう答えると、茂が小さな声で「知ってる」と呟く。
「じゃなくて。あの頃とは違って、ちゃんとできると思う」
「あの頃とは、って?」
高志は一瞬口をつぐんだが、結局、正直に伝えた。
「あの頃は……やらされてるって思ってたから」
「……」
「あと、罪悪感もあった」
「罪悪感?」
茂がその言葉に反応する。
「男だから?」
「じゃなくて、お前の体が」
最初に思い出すのは、体を強張らせていた茂の背中だった。いつも辛そうにしながら、必死に高志を受け入れていた。それなのに、高志はそんな茂に攻撃的な衝動を覚えたことさえあった。あの後の自己嫌悪を高志は今でも覚えていた。
でも今なら、全く違った気持ちで抱くことができると思った。今なら茂をもっと大切にできる。触れたいと思える。たとえ、茂を求める気持ちが女に抱く性欲とは異なるものであっても。
「何で。俺がしてって言ったのに」
「でもお前、怖がってただろ」
「え? ……何が」
「怖いんだろ。入れられるの」
高志がそう言うと、茂は黙り込んだ。
「別に、入れられるのが好きって訳じゃないだろ、お前」
「……」
「だから……俺はお前に触りたいと思うし、お前がやりたいならできるけど、でももしそうじゃないなら」
「俺に触りたい?」
「うん」
高志さえいなければ、茂の体はごく自然に女を求めるに違いなかった。そして高志は、あの頃いつも抱えていた疑問を口にした。
「お前、何でああいうことしたかったの」
そして同時に、その問いに茂が決して答えようとしなかったことも思い出す。今日も答えないかもしれない。しばらく返答を待ってみたが、やはり茂は黙ったままだった。まあいいか、と少し息をつく。