偽りとためらい(40)

 先に入るように言われて、高志はシャワーを浴びた。高志が出ると、入れ違いに茂が入る。座卓の上は茂が片付けてくれていたので、高志はテレビ台からゲーム機を取り出し、ぷよぷよをセットした。
 やがて茂も出てきたところで、二人は対戦を始めた。
 ゲームに集中していると、それだけ頭の中が空っぽになって楽になった。もちろん、茂はそれを分かって誘ってくれたのだろう。気が付けばいつものように夢中になり、悲鳴を上げたり悪態をついたりしながら笑い合っていた。
「はあ。ちょっと休憩」
 何回か勝負した後、高志が詰んで終わったところで茂がそう言い、立ち上がると、冷蔵庫に新しい缶を取りに行った。
「お前も?」
「いや、まだある」
 高志の返答を聞いてビールを一本だけ手に持って戻ってきた茂に、高志は、ふとさっきのゲーム中に思い出したことを聞いた。
「そう言えば、別のことって何だ?」
「え、何が?」
「さっき言ってただろ。俺が変だったの、別のことが原因だと思ってたって」
「ああ」
 茂は少し言い淀みながら、高志の横に座った。
「いや、何でもない」
「ふうん」
 高志は特にそれ以上聞くつもりもなかったが、茂はプルトップを開けた後、飲まずにしばらく缶を眺めていた。
「……ていうか、俺とあんまり話したくないのかと思ってた」
「え?」
 予想外の答えに、高志は茂を見た。
「何で」
「軽蔑されたかと思って」
「は?」
「いや、そこまで大袈裟な感じでもないけど。まあ、ちょっと距離を置かれたかと思ってた」
 全く意味が分からない。
「何で俺がお前を軽蔑するんだよ」
「いや、違ったんならいいんだけど」
「どうしてそう思った?」
「だから、俺が」
「うん?」
「……適当に彼女作るやつだって思われたかなと思って」
 茂はぼそっと答えた。
「思われたっていうか、まあ実際そうなんだけど」
「何でだよ。お前は」
 淋しいからって言ってたじゃないか。その言葉を高志は飲み込む。
「……お前が今カノと付き合ったの、だいぶ前だろ」
「うん」
「そんなに前から、俺、態度おかしかったか」
「いや……そんなこともないけど」
 茂は首を振る。
「はっきりとおかしいなと思ったのは最近だけど。まさか、彼女と別れてると思わなくて」
 それは、言わなかった高志のせいだ。
「俺が彼女できたって言った時、藤代怒ってたみたいだったし。色々考えたけど、それしか思い付かなかったから」
 高志は、茂がどうして彼女の話をほとんどしないのかを理解した。
「怒ってない」
「うん、まあ、だったら良かったけど」
「お前を軽蔑とかする訳ないだろ」
「うん、そっか」
「……ばかか」
「はは。ごめん」

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