続・偽りとためらい(30)

 それからしばらく、週末はまた毎週のように希美と一緒に過ごした。金曜日の仕事帰りに落ち合い、大抵は土曜日の夜まで高志の部屋で二人で過ごす。外食する回数が減り、部屋で食べることが増えた。
 あの旅行以来、茂とは連絡を取っていなかった。
 しばらく距離を置けば、そのうちに茂への感情が薄れていくかもしれない。そう思いながら数週間を過ごしてみたが、実際には、高志の頭の中には常に茂の存在があった。考えてみれば、自分は過去にも半年以上の期間を待っていたのだ。あの時の精神状態と今は少し似ている。あの時に茂の記憶が薄れることがなかったのだから、今回もきっと数か月程度では忘れることはできないのだろう。
 そして結局のところ、高志は、茂に会いたい、話したいという欲求を完全に手放すことはできなかった。時間が経てば経つほど、逆に茂に連絡したい気持ちが強くなった。普通の友達というのはどの程度の距離感で付き合うものだっただろうか。もし自分が茂に対して特別な感情を抱いていないとしたら。大学時代に茂が長期休暇で帰省していた時のことを思い出してみる。あの頃は、タイミングなんて気にすることもなく、どうでもいいことを思い付いくままに遣り取りしていた気がする。
 結局、一か月経たないうちに、高志は自分の欲求に負けた。
 ある夜、シャワーを浴びた後でベッドの上に寝転がっている時、茂にラインを送ろう、と思った。何でもいいから、少しだけ遣り取りできればそれでいい。あくまで友達として。
 しかしいざ送ろうと思うと、何を書いていいか分からない。大学時代と違って、今の状況では共通の話題がほとんどないということに気付く。思い付く話題といえば先日の旅行に関することくらいだが、家族へのお土産のお礼を言うには既に日が経ち過ぎていた。
 どちらにせよもっと早いうちにお礼は伝えておくべきだった、と思いながら旅行のことを思い返しているうちに、ふとあることが頭に浮かんだ。くだらなさ加減がちょうど良いように思えた。深く考える前にメッセージを作成する。
『うちの家族がお前はイケメンだって言ってた』
 そのまま送信し、しばらくすると、返信が来た。
『何の報告w』
 ごく短いそのメッセージで、高志は驚くほど楽しい気分になった。
 部屋の中で一人で少し笑い、返信はせずにそのままスマホを置いた。

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