知らぬ間に失われるとしても(78)

 朝食は、駅前のファストフード店でモーニングセットを頼むことにした。
「俺、モーニングって初めて」
「俺も。前から食ってみたかった」
「美味そうだよな」
 カウンターでそれぞれ注文してから、トレイを持って座席の方に行く。日曜日の朝だからか、思ったほど混んでいない。適当なテーブル席に向かい合って座り、早速食べ始めた。
「――なあ。柏崎さ、あいつも俺のこと色々知ってるんだろ」
「うん。多分」
 圭一の問いに、旭は頷く。
「てか、それでこの前、二人で昼飯食ってたんだな」
「あ、そう。柏崎くんが心配して来てくれたんだ」
「俺、あん時ほんとはすげえ嫉妬っていうか、むかついてたのに」
 そう言いながら、圭一は笑う。
「柏崎に聞いてもしれっとしてるしさ。でも実は俺のせいだったなんてなー」
「……お前、何かもう、割と平気?」
 あまりにもあっけらかんとした圭一の態度に、旭は思わずそう聞いてしまった。
「平気とかじゃないけど。寝不足で何かちょっとぼうっとしてるかも」
「大丈夫かよ」
「うん。眠くはないから」
「飯食ったから、後で眠くなるんじゃね」
「かもな。そしたら殴って起こして」
 でも落ち込んでるよりはいいのかもしれない。そう思い、旭は頷く。落ち込んでも考え込んでも、どうにもならないのだし。
「俺、もう絶対に忘れたくないからさ」
「うん……でも、徹夜なんかそんな続かないだろ」
「ほんとは、昨日もちょっとだけうたた寝しちゃったんだけどさ。忘れてなくてまじ良かった」
「お前、元から結構寝る方じゃなかった?」
「だからさ、昨日色々ネットで調べたんだよ。そしたら何か、夜に連続8時間寝るんじゃなくて、起きてる時間をもっと細切れにして、その合間合間に短時間だけ寝るみたいな睡眠法があるらしい。45分睡眠とか」
「いや……そんなの」
「最悪、それだったら忘れずに済むかも」
 何と言っていいのか分からず、旭は言葉に詰まった。そんなことをしていたら圭一はすぐに体を壊してしまうだろう。でも忘れたくない圭一の気持ちを否定できない。旭だって、本当は忘れてほしくないけれど。
「でも学校あるし、無理だって。運動部だし」
「まあ、こうなったら部活は辞めてもいい」
「ちょ、待てって」
「いざとなったら、ってこと」
 旭の表情を見て、圭一は話を変える。
「柏崎にも、知ってることないか聞いてみようと思って」
「ああ……うん、いいかもな」
「だろ。あいつの視点で何か分かるかもしれないし」
「うん」
「……ほんとに、何で忘れるんだろうな」
 圭一がぽつりと呟いた。

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