知らぬ間に失われるとしても(76)

20.ノート

 翌朝、旭が目が覚ますと、圭一はもう起きていた。
 布団の上で目を開けた時、最初に視界に入ったのは、目の前にある圭一の両足だった。
 そのまま見上げると、ベッドに座った圭一が、こちらを見下ろして笑い掛けてくる。寝ている旭をずっと見ていたようだった。
「おはよ」
「あ……はよ」
「めちゃ寝てたな」
「ん……」
 体には再びタオルケットが掛けられていた。とりあえず布団の上で起き上がった旭は、自分の裸の上半身を見て、すぐに昨日のことを思い出した。はっと圭一を再び見上げる。
「お前、俺のこと覚えてんの?」
「あ、うん。寝なかったから」
 圭一はあっさりと頷いた。
「えっ? 寝てないのか、全然」
「ずっと意識があれば、いきなり忘れないだろうと思ったんだけどさ。やっぱ大丈夫だったな」
「……でも」
 そんなこと、ずっと続けられる訳じゃない。旭の懸念を察知したのか、圭一が明るく笑う。
「とりあえずはOKだろ。寝なければ大丈夫って分かっただけでも」
「……ん」
「なあ、見て、これ」
 横に置いてあったノートを手に取り、嬉しそうに旭に差し出してきた。
「万が一忘れた時のために、自分宛てに色々書いてみた」
 そこには、大きめの文字で箇条書きの文章がいくつも書かれている。
「あと何か書いといた方がいいことある?」
 そう聞かれて、旭はノートを受け取り、目を落とした。

『注意!!
・自分は記憶をなくすことがある(旭についてだけ)
・旭と6月から付き合っている、旭も俺が好き!
・スマホの写真を確認すること(8月のUSJ)
・旭とのラインを確認すること
 
流れ
・6月に旭に告白した(1回目)
・自分はすぐに忘れた(←原因???)
・その時に旭とけんかしてもう一回告白した(2回目)←期末前
・テスト勉強を毎日一緒にした
・夏休みに旭はバイトしてた(セクハラされた)
・8月に旭とUSJに行った(←スマホ写真)
・8月31日に旭はうちに来た(←ライン)
  ※ラインはこれから毎日すること
・セックスしようとして旭が無理して俺が怒った、それでまた忘れた?(←原因???)
・二学期から旭にさけられる←俺の記憶なくなったせいで
・旭と柏崎が2人で昼飯食う
  ※柏崎も俺の記憶のこと知ってるらしい
・自分が旭にさけられていると確信、家によんで旭と話をする→告白(3回目)
・俺が決めつけるところが旭は嫌いなのでこれから気をつける
・旭は抱きしめられるのが好き(本人談)
・旭は俺がキスが好きだと思っている(多分旭が好きなんだと思う)
・旭は下の名前でよばれるのが好き
  ※これを読んだら次から下の名前でよぶこと
・春信兄ちゃんの結婚式の時に旭と柏崎が泊まりにきた、柏崎だけ先に帰る
・旭はピザよりファミレスのデリバリーが好き
・旭はゲームにあきているらしい
・旭の髪の毛はやっぱりさらさらだった
・セックスしようとしてまた失敗、旭は痛くてもがまんするから要注意
・アナルをほぐす時にジェルがたりないとつらいようなので次回要注意(多めに)
・ジェルをぬった手でしごくとめちゃよさそう
・指で中をこすると気持ちいいらしい?
・乳首はわりと感じるらしい?(かむと)
・途中でたまにキスすること。(ディープ)してほしがる
・ジェルとコンドームはベッドの下の紙袋にある

 旭は俺が好き!!!
 だからもしお前が旭と付き合いたいなら
 まずここに書いてあることを信じて
 旭と柏崎に聞くように!!!!』

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