偽りとためらい(45)

第15章 三年次・4月

 三年次からは、学部生はそれぞれ一つのゼミに所属し、その後二年にわたって担当教授の指導を受けながら卒業論文を作成して、四年次の終わりに提出することになる。そして所属ゼミの希望はあらかじめ二年次の終わりに提出することになっていた。
 二年次の終わり、高志は須藤教授のゼミを第一希望として提出することにした。今まで受講した講義の中で一番面白く、研究分野も興味深いと思っていた教授だったからだ。そして特に申し合わせた訳ではなかったが、茂も同じゼミを希望していることが分かった。ただ、折に触れてその教授の講義の面白さについて茂と話したりもしていたので、当然と言えば当然かもしれない。
 4月になって所属ゼミが正式に決定し、二人とも無事希望するゼミに入ることができた。須藤ゼミは希望者が多かったらしく、今年所属することになった学生は14名いた。顔見知りの者もいたが、ほぼ知らない人間だった。茂はサークルで繋がりのある知人が一人いたらしく、「矢野さんっていただろ。隣のサークルの人なんだけど、俺お世話になってるんだよね」と言ったが、高志は名前だけではどの人か分からなかった。

「卒論って書ける気しないな」
 初回のゼミが終わった後、図書館に向かって歩きながら茂が言った。
「しないな確かに」
「そんでも、今までの学生はみんな書いてるんだから、結局書けるんだろうけどなー」
「テーマを決めるのが一番難しいな」
「だよなあ」
 入館し、それぞれ目的の書籍を探す。いきなり卒業論文に取り掛かるのではなく、今年度はひとまず興味のあるテーマについてまとめたものを持ち回りで発表することになる。そのための資料を探しに来ていた。専門書の書架の辺りは絨毯も弾力があり、まるでそれが音を吸い込んでいるような静けさで、独特の雰囲気があった。
「そう言えば、どう? 教習所」
「ああ、もうすぐ路上に出る」
「この辺だと車も多くて大変そうだなー」
 春休み中、何かでラインの遣り取りをした時に、高志が今教習所に通っていることは伝えていた。茂は一回生の時に早々に普通免許を取得している。田舎では必須なんだと話していた。

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