偽りとためらい(22)

第8章 二年次・4月

 4月。二回生になり、茂と再会した。お互いの履修科目を確認すると、同じ学科で同じ専攻なので当たり前と言えば当たり前だが、一回生の時と同様に半分以上同じ授業を取っていた。
「サークルのやつらがさ、また藤代を呼べって言ってたから、近いうちまた俺んちに集合な」
「いいけど、何で俺?」
「あいつら藤代のこと好きだから」
「何でだよ」
「かっこいいからだろ」
「……どうせお前が適当なこと話してるんだろ」
「何で。実際に直接会ったじゃん」
 俺は何も言ってないよ、と茂は言うが、高志は真に受けなかった。
「ていうか、ぷよぷよがやりたいんじゃないかな、あいつら」
「別に、いつでもできるんじゃないのか」
「違うよ、藤代とだよ。あ、てかそう言えば、ついに佳代ちゃんまでぷよぷよやりたがっちゃってさあ」
 学校が始まったら対決する約束したんだった、と面白そうに話す。
「伊崎さんもゲームとかするんだな。意外」
「ぷよぷよは大昔に家族ではまってたって言ってた。佳代ちゃんとこ、家族すごい仲良さげでさ」
 とりあえず、茂のサークル仲間とのぷよぷよ大会は、4月中、また前回と同じ金曜日に行うことになった。新入部員が入ってくる時期のため来週半ばまでオリエンテーション期間が設けられている他、柔道部でも茂のサークルでもどこかで歓迎会や親睦会が行われるはずで、その予定を確認して摺り合わせる必要があった。
「伊崎さんは? 予定聞かなくていいのか?」
「ん? うん、大丈夫」
「金曜いけるって?」
「え? あ、違う違う、佳代ちゃんは来ないよ。さっき言ったのは別口」
「そうなのか。ついでに呼べば?」
「いやー、さすがに気い遣うでしょ」
 自分よりはよっぽどみんなと楽しくやれそうだが、と高志は思う。
「ていうか……ちょっと違うから。何か、俺的に」
 茂の気が進まない様子を見て、もし自分だったら遥香を呼ぶかどうかを考えてみた。自分もやっぱり呼ばないと思う。確かに、それはあり得ない。
「そっか、悪い」
「別に、藤代と三人とかだったらいいんだけどさ。サークルのやつらは何か違う」
「まあ、それだったら二人きりの方がよっぽど正解だけどな」
 その時、そう言った自分自身の言葉で、ふと高志は佳代の本心に気付いた。
 ぷよぷよはただの口実で、佳代は、本当はただ茂の部屋に行ってみたかったんじゃないだろうか。
「……初めて?」
「ん?」
「伊崎さんが部屋に来るの」
「そうだよ」
 案の定、茂はそう答える。やっぱりかと思う。そして同時に、表面上いくら仲良さげに話していても、依然として茂はまだ佳代への心の壁を取り払い切れていないのだと何となく分かった。前に茂の部屋で話した時に知った、茂の持つ意外なほどの他人との距離感を思い出す。
 そして、高志がそれを感じ取っているのであれば、佳代だって同じようにそれを感じているに違いない。おそらく高志以上に。

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